2021年11月26日
今年10月の衆院選に出馬せず、約38年に及ぶ議員生活に区切りをつけた自民党の伊吹文明元衆院議長(83)。旧大蔵省を経て政界入りした政策通で、政界の「ご意見番」として存在感を示してきた。衆院選を経て、第2次岸田内閣が発足し、立憲民主党では枝野幸男代表が敗北の責任を取って辞任した。時に歯に衣(きぬ)着せぬ物言いで「イブキング」との異名で語られる伊吹氏。これからの政治に必要なものは何かを聞いた。(時事通信政治部 島矢貴典)
首相に求められる「実行力」
―衆院選の結果をどう分析しているか。
予想を裏切ったのは、自民党と立憲民主党の結果だ。自民党の場合は良い方に、事前調査とは違う結果になった。過半数割れという予測もあったが、予測を大幅に上回った。しかし、自民党には勝ったという高揚感はない。公示前から15議席減らし、小選挙区の候補者の得票率は軒なみ低下している。
投票率が2017年衆院選と比べて上がった。自民党は、一見するとあまり票数を減らしてないように見えるが、得票率を見るとほとんどの選挙区で下がっている。現職の幹事長が小選挙区で苦杯をなめるなど、必ずしも良かったという感じはない。
―立民側は想定外の結果だった。
選挙前は議席数がかなり増えるだろうとされたが、減らす結果になった。だから、今後、路線論争が党内で起こるだろう。立民と共産党は、国家の基本である憲法改正や日米関係等々が違う。これは立民だって分かっている。それにもかかわらず、票を積み上げるというだけの選挙協力に引っ張り込まれたのは立民の失敗だ。
―野党の候補者一本化に有権者の拒否感が強かったのか。
私は、菅義偉前首相の新型コロナ対策は非常に良くやったと評価している。しかし、その良くやったことをうまく説明できなかった。そのために、何か非常に失敗したような印象を国民に与えた。
あるいは、森友学園問題や政治とカネの問題について、説明をもう少し丁寧にしてほしいという人が今回は自民党に投票しなかった。本来なら政権批判票の受け皿となる立民が共産党と一緒になったのも嫌だとなった。結局、政権批判票の受け皿が日本維新の会になった。
―選挙結果を受け、与野党に望むことは。
自民党にとっては、岸田文雄首相のような「聞く力」というのはいいんだけど、聞く力に加えて、今度は対話をする力、説得をする力、そして最後に結論が出たらそれを実行する力が求められている。
立民には、健全なリベラル政党になることが求められる。自由と民主制は前提にするが、平等や人権などに対して自民党以上にセンシティブな政党に脱皮していけば、日本のためにもいいことだ。弱い野党だと、自民党に緩みが出てくる。自民党が説明責任を果たしていくためにも、立民にしっかりしてもらわないといけない。
今こそ財政再建の議論を
―衆院選の論戦では、各党が分配政策を競い合った。
典型的な例は、立民の政策だ。年収1000万以下の人は所得税は払わなくてもいいと。それで9兆円の減収だ。同時に時限的に消費税を5%に下げるという。これで14兆円ぐらいの減収になる。
合計した23兆円の不足をどうするのか。減収についての議論は全くない。かろうじて議論があったのは金融資産に対する課税強化だった。しかし、それだけでは不足する23兆円には遠く及ばない。逆に中間層の金融資産、老後に備える金融資産にまで課税を強化するのかどうかだ。本来は、衆院選の中で、そういうことを議論すべきだったが、ほとんどなかった。
―与謝野馨元官房長官や谷垣禎一元自民党幹事長ら財政再建派が政界からいなくなったことが影響しているのではないか。
僕が政界からいなくなると、財政再建派の発言は残念ながら皆無だろう。今はコロナで経済も落ち込んでいるので、経済対策も必要だ。こういう時期に増税はやれないので、結果的に国債発行になる。だけど、コロナ収束後、こういう異例の緊急事態に増発した国債の処理をどういう形でやっていくかの議論は今から始めないといけない。将来のことを考えて議論はやらないのは無責任ですよ。
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