2021年11月19日
覇権争いが深まり、衝突の不安が高まる米国と中国。中国が軍事的圧力を強め、台湾有事のリスクがささやかれる中、バイデン米大統領と中国の習近平国家主席は11月16日(米時間15日)、初めてのオンライン形式での会談を行った。会談をめぐる背景や双方の狙い、思惑について、中国外交に精通する興梠一郎(こうろぎ・いちろう)神田外語大教授(現代中国論)と米国政治に詳しい小谷哲男(こたに・てつお)明海大教授(国際関係論)に話を聞いた。
(時事通信中国総局・平原紀子、外信部・原田憲一)
◇「G2」回帰が最大の成果 (興梠一郎教授)
―会談で注目したポイントは。
全体の印象は冒頭のあいさつに集約されている。バイデン氏は習氏との仲の良さをアピールし、習氏も「古い友人に会えてうれしい」と応じた。中国メディアは二人が並んで手を上げている写真を流したが、それが中国側の一番言いたいことを象徴している。演出したいのは、二大大国が世界の問題を語り合っているというイメージだ。
トランプ前政権では中国は相手にされず、存在感が低下していた。バイデン氏が二大大国に引き上げたことで、あたかも「G2」の時代に逆戻りしたかのようにみえる。これが中国側にとっての最大の成果だ。
個別の議題を見ると、中国側は、バイデン氏が「米側は中国の体制転換を求めない」ことを確認したと発表しているが、米側の発表にはない。ただ、サリバン米大統領補佐官が事前にCNNテレビで同様の趣旨の発言をしており、会談でも言及した可能性はある。台湾問題では、米側は「一つの中国」政策の維持を明確にし、一方的な現状変更には反対すると表明した。米側の発表を見る限り、新型コロナウイルスについてバイデン氏は「国家を超えた課題である」として起源の問題を追及していない。人権にも懸念を表明しただけだ。実際には議論したかもしれないが、発表では触れておらず、中国側は、会談前と違って「強硬的な言葉がなかった」(「環球時報」11月16日社説)と評価している。
―中国にとって対内的、対外的の両面で成功か。
そうだ。中国は民主化を仕掛けられるのが一番嫌で、体制を転換しないというのは大きい。国際的にはバイデン氏が二大大国のイメージをつくってくれた。
―米側にとって会談の利益は何か。
経済だ。米財界は経済関係を正常化したい思いが強く、政権にプレッシャーをかけている。新型コロナで受けた経済の打撃回復はバイデン氏の一つのテーマでもあり、それを考えたとき、中国との関係は切り離せない。今回の会談は成果のためではなく、「仲直り」のためのものだ。
―バイデン政権は対中強硬路線を示してきた。
当初から「対立ではなく競争」「協力が必要」と言ってきた。バイデン政権の対中関係は、絶対に紛争にしないというところから始まっている。今回の会談でも「常識のガードレール(防護柵)」という言葉で対立と協力を分けようと提案した。米側が協力を求めれば、その分中国は手持ちのカードが増える。対話のルートができた時点で中国ペースだ。
政権発足時から強硬姿勢との見方は違うと言ってきたが、今回表に出てきた。米国ではインフラ投資法が成立し、中国では共産党の第19期中央委員会第6回総会で歴史決議が採択された。お互いに権力を固めたタイミングでの会談だ。
―同盟・友好国と組んで中国に対抗する姿勢も強めていた。
二大大国として米中がお互いに協力する一方、日米、オーストラリア、インドの4カ国の連携枠組み「クアッド」や米英豪の安全保障枠組み「AUKUS(オーカス)」などインド太平洋で中国に対抗する構図は大きく矛盾する。同盟国は中国に本気で対抗するだろうか。中国は、米国と関係を強化すれば他国は全部なびいてくると考えており、それを望んでいる。
米国は同盟国には中国カードを切り、中国には同盟国カードを切っている。自分が一番有利な位置に立てる「オフショア・バランシング」政策で、それに同盟国が気づけば、距離をとるようになるだろう。
―今回の会談を機に、関係改善に向かうか。
首脳会談の発表だけを見るとそう感じるが、アメリカの世論は別だ。9月の電話首脳会談から始まり、中国通信機器大手・華為技術(ファーウェイ)の孟晩舟副会長の解放、スイス・チューリヒでの米中高官会談、気候変動の共同宣言などを全部つなげれば明らかに関係改善モードに入っている。しかし、米国の議会や世論は、依然中国に対して厳しい。首脳同士で関係を改善しても、世論に押され、再び強硬姿勢に転じるかもしれない。中国は、今回の会談で「国際世論を誘導できる」と期待する一方で、予断は許さないと警戒している。
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