2021年10月13日18時00分
大阪府摂津市で熱湯をかけられた3歳男児が死亡し、母親と同居していた無職松原拓海被告が殺人罪で起訴された。新型コロナウイルスの影響で保育園が閉鎖され、男児が自宅で過ごす時間が増えた中で起きた痛ましい事件。市や府の児童相談所は、事件前にも男児が暴行を受けていたことを把握し、母親を「第三者からの暴力を止められないネグレクト(育児放棄)」と判定していた。なぜ幼い命を守ることができなかったのか。(時事通信大阪支社編集部 田中朝登 武藤茉莉)
◇「殺される」訴えも
事件が起きたのは2021年8月31日午後。松原被告からの「意識、呼吸がない」との119番で駆け付けた救急隊員が、リビングに全裸であおむけに倒れていた男児を見つけた。司法解剖の結果、死因は熱傷性ショック。顔や上半身を中心に皮膚が赤くただれるなどしており、胸付近は皮下組織まで損傷が及んでいた。同じマンションの住民は男児が泣き叫ぶ声を聞いていたという。
男児と母親が摂津市で暮らし始めたのは2018年10月だ。母親が松原被告と知り合ったのはこの2年後。市は男児と母親、被告の3人が同居を始めたとみられる2021年5月、母親から「交際相手が男児の頬をたたいた」などと相談を受けた。市と児童相談所は同月、母親について、暴力から子どもを守れない「中度のネグレクト」と判定したが、「緊急性は高くない」として男児の一時保護には踏み切らなかった。翌月には母親の知人が「このままでは男児が殺されるかもしれない」と市に訴えていた。
◇複数面談も「対応不十分」
今回の行政の対応について、NPO法人「児童虐待防止協会」(大阪市)の津崎哲郎理事長は「最悪の事態につながる危険性の認識が甘かったのではないか」と疑問を呈する。市によると、市は3人が同居を始めたとみられる5月、母親のほか、松原被告とも面会し、暴力について注意。「男児が殺されるかもしれない」との切羽詰まった情報が寄せられた6月には母親と6回面会し、うち3回は男児とも会っていた。しかし、「緊急性は低い」との判断を維持し、警察との情報共有もしていなかった。そもそも、母親が被告と同居していることも把握していなかったという。
3人の同居を把握できなかった責任を市だけに押し付けることはできるのか。市によると、母親に被告との関係を再三確認したが、母親は「週末に来ているだけ」「週1程度」などと説明していた。
だが、かつて児童相談所で所長を務めた津崎理事長は「交際相手の同居を隠すケースは多い」と指摘し、市側の対応を非難する。理事長によると、恋愛感情が高まると、わが子に対する暴力を知っていたとしても、「交際相手と引き離されたくない」との思いから同居を隠すケースがあるという。津崎理事長は、東京都目黒区で2018年、父親が妻の連れ子の食事を制限するなどした5歳女児虐待死事件を例に挙げ、「実子ではない子どもと同居するケースでは虐待がエスカレートしやすい傾向がある」とも指摘。「福祉行政にかかわる職員は、虐待に発展するメカニズムを理解して対応にあたるべきだ」と強調した。
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