試合形式の稽古を見たが、競技剣道の立ち合いに比べて対戦する選手の間合いが近いという印象を受けた。竹刀による打ち合いが、瞬時に組み打ちに変化するため、剣道と柔道の試合を同時にやっているようなものだ。当然、かなりの体力が必要で、2キロ近い木刀で体幹を鍛えなければならないことが納得できた。
保存会のメンバーには女性もいて、男性メンバーとは体格の差もあるが、稽古に男女の区別はなかった。加藤代表師範も「(天然理心流の)勝負に身長や体格の差は、関係がない」と断言する。考えてみれば、命のやりとりをする実戦で体格の差が勝負を決するのであれば、「技」は必要なくても構わない。映画「燃えよ剣」には、大男の芹沢鴨(新選組の初代筆頭局長)役の伊藤英明さんと、小柄な岡田准一さん演じる土方歳三が1対1で立ち合う場面があるが、岡田さんの動きには体格差をものともしない敏捷(びんしょう)さがあり、幕末の剣術の実態を表しているように思えた。
加藤代表師範は、「私たちが伝えようとしている天然理心流は、競技剣道が成立する前の原初の剣術だと考えています。稽古も『何でもあり』の激しいものになりますが、(天然理心流は)そうでなければ生き残れなかった時代の産物なのです」と語る。現代社会に幕末のような「実戦」は起こり得ないが、保存会の稽古からは新選組が駆け抜けた苛烈な時代の息吹が感じられた。
(2021年10月20日掲載)
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