剣を振るい、血しぶきが飛ぶ。動乱の幕末に、京都三条の旅館「池田屋」に潜んでいた尊王攘夷派の志士たちを「新選組」が襲撃する、あの歴史的な事件もリアルに再現される映画『燃えよ剣』(全国公開中)で、局長の近藤勇役を演じたのは鈴木亮平さんだ。
主人公の「鬼の副長」土方歳三(岡田准一)や天才剣士、沖田総司(山田涼介)らに支えられる新選組の顔だった実直な剣豪。「凡庸かもしれないが、チャーミングなリーダー像を目指した」と話す鈴木さんに、新選組と映画の魅力を語ってもらった。
※ ※ ※ ※ ※
近藤さんのように実在した人物を演じるのは、やりがいがあります。実際の人物像を突き詰める楽しさがあることに加え、演じる俳優だけが感じられる思いや、勝手に共感できる部分、発見などがあるのですごく面白いです。
この映画に関わる前は、かなり男っぽくて豪胆な人なのかなという印象を持っていました。政治的な信条や「武士のリーダーたるストイックさ」もあったと記述する文章もありますが、司馬さんが書いておられる近藤勇は、結構調子に乗ってしまうような男で、政治的な信念もあまりない。最初は「どう演じようかな」と迷いました。
でも、今回はあくまでも司馬さんの「燃えよ剣」がベース。最終的に「武士のリーダー」の部分はしっかり入れつつ、人間的にチャーミングな近藤にすることで、司馬さんの原作を裏切らない人物像をつくれるかなと考えました。
神輿に乗せたくなるリーダー
武士に憧れた人ですから、男っぽくて過激な部分や押し出しのある人物にしたいと思いました。原作で描かれる近藤は、ちょっと凡庸な感じもしますが、それだけだとリーダーとしては誰も付いてこない人物になってしまいます。
そこで、凡庸の良さと言うか、必死に格好良くしようとしているのに、ちょっと間が抜けていて、みんなが神輿(みこし)に乗せたくなる、そんなリーダー像を目指しました。土方が実務的なリーダーだとしたら、近藤は感情面のリーダー。僕自身も近藤に近いと思うので、そういう感じにした方が説得力も出るのかなと。
新選組の屯所だった京都の旧前川邸に残る雨戸の表面には「会津 新選組隊長 近藤勇」、裏面には「勤勉 努力 活動 発展」と大きく書いてあります。まるで「俺だ! どうだ!」みたいな感じがすごくチャーミングだなと思った。そんな「あの人、ちょっと浮かれてるよ」みたいな人間臭さが出れば、「局長」と言われて慕われる人間になるんじゃないかと思いました。
■新選組が駆け抜けた6年間■
近藤や土方、沖田らは、市中警護の浪士募集に応じて京都に向かい、1863(文久3)年、仲間と共に新選組を結成、倒幕派の制圧で名をはせた。初代筆頭局長は水戸藩出身の芹沢鴨だったが粛清。大政奉還後の戊辰戦争では旧幕府軍と行動を共にするが、その後は四散。近藤は投降して刑死、沖田は病死、土方は函館(当時は箱館)で戦死した。
新着
会員限定