しっとりとした美しさと、凛(りん)とした強さを兼ね備えたヒロインだ。
激動の幕末を駆け抜けた新選組をめぐる人間群像を描く映画『燃えよ剣』(全国公開中)。個性豊かな男優陣が男の生きざまを熱く演じる中、柴咲コウさんが主人公の新選組副長、土方歳三(岡田准一)の“思い人”お雪を好演している。
お雪は司馬遼太郎の原作小説にも登場する架空の人物。原田眞人監督による脚本では、より現代的、能動的な女性として描かれ、作品世界の奥行きを深める。「お雪に自分と重なる部分を感じた」という柴咲さんは、どのように撮影に臨み、ヒロイン像を造形していったのか。
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―原作はベストセラーとなり、幾度となく映像化、舞台化もされています。
この映画のオファーがあってから原作を読みました。新選組はこれまで大河ドラマなどでも描かれていてとても有名ですが、この題材を原田監督がどのように撮られるのかに興味が湧きました。
舞台となる幕末は、みんなが「これからどうなるんだろう?」という不安を抱えている時代。その意味で、現代にすごく近い部分があるなと感じました。
幕末のエネルギーに覚えた共感
現代の日本では格差社会が問題となっています。その差がどんどん広がっていく中、(心理的に)抑圧されている人の間に「私たちはただひたすら受け身なの?」という思いが生まれている気がします。抑圧されればされるほど、そういう思いや(そこに反発する)エネルギーは高まっていく。脚本を読んで、それに似たエネルギーを幕末の時代にも感じ、共感する部分がありました。
同時に、劇中で描かれる男たちの刹那(せつな)的な戦い、「斬って斬られて」みたいなチャンバラ劇を早く映像で見たいとの思いがすごく高まりました。でも、その中に女性である私はいない(笑)。ただ見守るしかない。演じる側としてその歯がゆさはありました。
―原田監督との仕事は今回が初めてです。
監督の作品は最近では『検察側の罪人』(2018年)を拝見しましたが、人間の性(さが)も含めた「表と裏」が描かれていて、「正義とは何か」を改めて考えさせられましたね。
『燃えよ剣』の撮影現場には、ものすごい緊張感がありました。それが少しずつ良い刺激に変化し、撮影を通して「自分がお雪になれたかな」と体感できました。
■『燃えよ剣』のお雪■
江戸生まれで、京都奉行所の下級役人だった夫を亡くし、絵師として生計を立てている女性。戦いでけがを負った土方歳三に出会い、介抱したのをきっかけに恋に落ちる。
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