『日本のいちばん長い日』(2015年)と『関ヶ原』(17年)で日本の二大変革期を描き、高く評価された原田眞人監督が「第3章」となる最新作『燃えよ剣』(東宝系で10月15日公開)で激動の幕末の時代を大スクリーンによみがえらせた。
新選組の鬼の副長と恐れられた土方歳三(岡田准一)を主人公に、時代の荒波に翻弄(ほんろう)される人々の姿をダイナミックに描く。目指したのは「観客が当時に迷い込んだと錯覚するようなリアルな作品」だ。
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―映画の原作である司馬遼太郎さんの「燃えよ剣」を高校時代に読み、大いに心を引かれたそうですね。
「燃えよ剣」を読むまで、思い描く新選組は敵役の象徴のような存在でした。勤皇の志士は正義で新選組はワルだと思っていた。でも、人間が3次元的にふくよかに描かれた司馬先生の小説から、物事には二つの側面があることに気付かされ、それから新選組のことを調べるようになりました。
映画にするからには、単なる原作のダイジェストにはしたくなかった。「竜馬がゆく」「胡蝶の夢」など他の司馬作品のほか、子母沢寛の新選組三部作(新選組始末記、新選組遺聞、新選組物語)や吉川英治の短編「函館病院」など、幕末を舞台にした他の作品の要素もお借りして物語を構成しました。
幕末の資料は豊富で、探っていくのは楽しい作業でした。小説を見ても、例えば司馬先生の「竜馬がゆく」の土方は、脇役に徹しているけどクール。「胡蝶の夢」では(将軍の侍医だった)松本良順との友情が描かれている。さまざまな視点から土方を追い掛けることで、当時の時代が全部見えてきた。幕末の人物のつながりや各人の歴史を知る上でも結構重要な人物だと初めて分かりました。
新選組というと、浅葱(あさぎ)色のだんだら模様の羽織が有名ですが、子母沢寛が綿密な取材に基づいて執筆した三部作を読むと、彼らはあんな制服は着ていない。過去の映画やドラマでだんだら模様の羽織を着せているのは、そっちの方がアピールすると思い込んでいるからで、「それは嫌だな」と。ですから今回、土方や局長の近藤勇(鈴木亮平)は(史実通りの)黒い制服を着用しています。
―過去の洋画からもインスピレーションを受けたと伺いました。
多摩の村から出てきた土方、近藤、沖田総司(山田涼介)、井上源三郎(たかお鷹)の生きざまは、米国の名作映画『リオ・ブラボー』(ハワード・ホークス監督、1959年)の4人組(ジョン・ウェイン、ディーン・マーチン、リッキー・ネルソン、ウォルター・ブレナン)のような設定だなと思いました。そこで、ヒロインのお雪(柴咲コウ)にもホークスの作品に登場する鉄火肌の姐御(あねご)のような行動力を持たせました。
新選組の内部抗争は『グッドフェローズ』(マーティン・スコセッシ監督、1990年)ですね。あの映画に出てくるマフィアの連中は、同胞愛は強いけれど敵に対しては徹底的に残酷になれる。そのくせかわいいところもある。「新選組もそうだったんだろうな」と。
―監督は、映画ジャーナリスト、評論家出身で膨大な映画をご覧になっていますが、その蓄積が現在の映画作りに大いに役立っているのですね。
気に入った作品は今もコンスタントに見直して検証しているようなところがあります。小津(安二郎)作品などは年を経て見直すごとにどんどん好きになっていますね。黒澤明さんやホークスの作品もそうだけど、時代が変わっても名作からは学べることは常にあると思います。
■映画『燃えよ剣』のあらすじ■
原作は累計500万部を超える司馬遼太郎のベストセラー。主人公の土方は武州多摩の農民の子で“バラガキ(悪童)”と呼ばれていた。剣術仲間の近藤らと共に「侍になりたい」という夢を追い、市中警護役の浪士を募っていた幕府の京都守護職の下で新選組を立ち上げ、尊王攘夷派の捕縛などの任務に当たる。その波乱の生涯を、京都で暮らす江戸生まれの女性お雪とのロマンスを交えて描く。
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