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男尊女卑の「黒歴史」を超えて 世界有数の男女平等で豊かな国、アイルランドの今

織田村恭子(アイルランド在住/ライター)

「国民投票」で同性婚が認められた世界最初の国

 アイルランドは「豊かな国」である。こう書くと疑いの目を向けられる方も多いかもしれない。

 確かに古くは19世紀半ば、主食のジャガイモが疫病で壊滅的被害を受け、国民の25%は生きるためにアメリカ合衆国やオーストラリアへと移住していった。1980年になっても「EUのお荷物国」とまで揶揄(やゆ)された。

 だが国際通貨基金(IMF)が発表する「1人当たりの名目GDP(国民総所得)国別ランキング」の最新2020年版では、アイルランドは8万8350米ドルで堂々の世界第3位となった。ちなみに日本は23位で4万0146米ドル。豊かさの指標はいろいろあるが、この「1人当たりの名目GDP」だけを見れば、「アイルランド人は日本の2倍以上豊かな生活を送っている」とも言えるだろう。

 また「経済協力開発機構(OECD)加盟諸国の労働生産性ランキング」の最新19年版では、就労者1人当たり18万7745米ドルで、37カ国中堂々の第1位。ちなみに26位の日本は8万1183ドルで半分にも満たない。マイクロソフト、グーグル、アップル、インテル等の巨大IT企業が海外事業拠点を、また製薬企業の世界上位10社のうち9社、医療機器企業の世界上位25社のうち15社が、現在アイルランドに製造拠点を置き、本格稼働している。失業率はかつての20%から4.44%まで下がり、政府は19年、長年の目標であった完全雇用をほぼ達成したと宣言した。

 さらにアイルランドは「自由な国」でもある。同性婚が認められる社会を目指すNPO法人「EMA日本」によると、アイルランドで同性婚が認められたのは15年11月だ。世界で20番目というから「世界に先駆けて」とは決して言えないが、ユニークなのは同性婚の合憲化の是非を問う国民投票を世界で初めて実施し、賛成が半数を優に上回る62%を占めたという事実だ。

 つまり同性愛者やそれを支持する人たちのみの働き掛けだけで同性婚が法的に認められたのではない。国民の6割超が同性婚の合憲化を選んだことからも、アイルランドが自由な国であることがお分かりいただけると思う。

 そんな豊かで自由な国アイルランド。だがこのような姿になったのは最近のことだ。ついこの間ともいえる1970年代まではパブ(女性が接客する日本風のパブではなく、ビールなどのアルコールの提供をメインとする飲み屋)では女性の入店お断りというところが多かった。また入店させても、女性にはお酒を提供しないことがよくあった。これは法律ではなく、パブは男性が飲む場所であり、きちんとした女性は公共の場でお酒を飲むべきではないと考えられていたからだ。ただ中には、奥に扉付きのスナッグと呼ばれた小部屋を備えているパブもあり、そこでは女性がひっそりとお酒を飲むことができた。

 また悲願だった離婚が合法化されたのは、なんと1996年。さらに中絶の合法化に至ってはわずか3年前の2018年だ。

 こうした歴史から、アイルランドでは本当に近年まで、女性が極端に虐げられ、我慢を強いられてきた「男尊女卑」社会だったと言える。そして、その中核にあったのが、カトリック教会を中心にした「男性中心」の倫理観である。

 その悲惨さを表す事件の一つが、今年、改めてメディアで大きく取り上げられた『母と子の家』のスキャンダルだ。

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