2021年10月08日12時00分
衆院選は「10月19日公示―31日投開票」の日程で行われる。野党各党は政権交代を目指し、共闘態勢の構築を図るが、世論調査では野党への支持は広がりを欠く。新型コロナウイルスへの対応が後手に回り菅義偉前首相は退陣に追い込まれたが、批判の受け皿にはなりきれず、岸田文雄首相誕生に世論の注目が集まる。決戦を目前に控え、野党の現状やいまの政治をどう見ているのか、かつて自民党に所属し、旧民主党などで要職を歴任した藤井裕久元財務相(89)に聞いた。(時事通信政治部 中司将史)
本来の岸田文雄にあらず
―自民党総裁に岸田氏が就任しました。
総裁選に出馬した4人のうち、まっとうなのは岸田氏と野田聖子氏だと思っていました。私は安倍晋三元首相の歴史観や国家観は間違っていると考えていますが、他の2人(高市早苗氏、河野太郎氏)は安倍氏に近い思想を持っている。ただ、総裁選の経緯を見ると、まっとうだと思っていた岸田氏も安倍氏の力なくしては総裁になれないということを感じました。
―岸田氏のどの点を評価していますか。
彼は大平派の流れをくむ宏池会(岸田派)の人です。私は彼の父・文武氏とは大変親しくしていたし、祖父・正記氏もよく知っていますが、大平グループは平和主義者なんです。安倍氏の影響を受ける中で岸田総裁が誕生したことには疑念を持っています。やはり総裁になりたかったんでしょう。だから妥協をしている。本来の彼ではありません。
―自民党役員人事の顔触れはどうですか。
高市氏は人間としては好きですが、タカ派的な思想は許せない。彼女が政調会長に就任したのでは話になりません。発想が全くだめですね。つまり、安倍氏そのものなんです。安倍氏の一番の問題点は憲法。憲法に自衛隊を明記するなど容認できません。私は戦争を体験し軍人政治家にいじめられたのです。
―総裁選の論戦を振り返っていかがですか。
党の多様性を出そうという努力はしておられたと思います。
〈自民党総裁選が告示される2日前の9月15日、立憲民主党は衆参150人規模での新たな船出から1年を迎えた。枝野幸男代表は「政権の選択肢になるという目標に到達できた」と語った。〉
政治は情の世界
―立民結党から1年を迎えました。
今の野党の人たちはみんな理論派なんです。理屈で動くと言ってもいいですね。だけど政治というのは理屈でない面がある。吉田茂の下にいた大野伴睦、鳩山一郎の下にいた三木武吉らは、(1955年の)保守合同を実現し自民党をつくりました。表の理論は吉田、鳩山がやっていましたが、裏で実際に動かしたのは大野と三木です。政治にはこういう人が必要です。
―大野、三木両氏の特長は。
裏で全部やるということです。そして理屈ではなく情の世界、人間味があった。政治は学者の世界ではない。こういうタイプの人がいない今の立民は純粋過ぎます。
―時事通信の9月世論調査で、立民の支持率は3.0%にとどまっています。支持が伸びない理由や背景をどう考えますか。
今申し上げたことです。党内に理論派はいますし、野党の理論には正しいことが随分ある。しかし、それだけでは世の中は通らないというのが現実です。無党派層を引き込むポイントもそうした部分にあるのではないでしょうか。
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