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「定年選択制」を提案 おじさんだって一人一人違う!! 「45歳定年」を考える(上)

プロティアン社長・金澤美冬

 サントリーホールディングスの新浪剛社長が提唱し、大きく注目されている「45歳定年制」。「人材の流動化につながる」という賛成の声もあれば、「単なる首切りで企業側の身勝手な論理」という真っ向からの反対論もあり、意見は真っ二つ。経済界、労働界を大きく揺るがす新たな提案について、40、50、60代のライフキャリアを支援するプロティアン社長の金澤美冬さんに寄稿してもらった。

45歳定年、会社にも本人にも損?

 新浪剛サントリーホールディングス社長による「45歳定年」発言が話題になっています。わたしの周りの50代サラリーマンや60代元サラリーマンからはこんな声が聞こえてきました。

「45歳定年には反対。定年は60歳以上のほうが人生設計を立てやすいから」

「サントリーには緊張感が走り、“働かないおじさん”がいなくなりそう」

「もし自分が40歳で幼い子どもを抱えている時にしかもこの続くコロナ禍の中でこの発言を聞いていたらと、想像するだけで怖い」

「自ら主体的にキャリアを考えるために、外部からの多少ショック療法的な制度・イベントを設けるというのはあり」

 新浪氏としては、国は従業員を「70歳まで働かせろ」と言うけれど企業としては努力しても厳しいという経営者としての想いと、個人が会社に頼らず力をつけてほしいという、ご自身がキャリアを自律的に開拓されてきたからこその思いがあるのではないかと思います。

 組織に頼らない自律的なキャリア=「プロティアン・キャリア」を推しているわたしとしては、20代30代のうちに自ら必要なスキルを貪欲に吸収していくという考えには賛同します。入社した瞬間から、内向きのスキル(社内作法、派閥、社内システム運用、社内人脈)より外向きのスキル(専門性、業界知識、語学、プレゼン力、社外人脈)を身に着けていく意識ができるのはいいことです。

 また、「働かないおじさん」問題も、そもそも45歳以上の社員がいなくなるのであれば「おじさん」自体がいなくなるわけですから、解決(?)されます。

 ただ、2つ心配な点があります。

 一つ目は、45歳で一斉放出された「おじさん」はどこにいくのか?

①再就職・転職

 会社を定年になったから、じゃあ他の会社で…ということですが、現在でも40代以上の求人は少ないです。それがもし45歳定年が実現した場合、ますます少なくなると思います。例えば42歳からの3年間を別の企業で経験したいと思っても受け入れる方の企業側としては、定年までのたった3年しか会社にいられない人を雇うのはコストパフォーマンスが悪いので、転職は難しくなってきます。

②再雇用

 同じ会社で働きたい場合です。40代で組織内で昇進や昇格の可能性に行き詰まったと感じてモチベーションが低下し停滞してしまう「キャリア・プラトー(『プラトー』は平坦な高原の意)」になりやすいといいますが、再雇用でお給料も下がり、責任もなく、評価もされなかったら、平坦な高原どころではなくなるように思います。

③起業

 これは向いている人とそうでない人がいると思います。20代30代のうちから準備するとしても、サラリーマンとして働いていたときと同じくらいの年収を得られる人がどれだけいるのでしょうか。新浪氏のように、その能力をどこでも発揮できる人もいれば、そうでない人もいると思います。

 そして、転職や起業でうまくいかない不安があると、安心して子どもを育てられなくなってしまい、少子化に拍車がかかるでしょう。今、わたしのまわりのセカンドキャリアを謳歌している60代の方が異口同音に言うのは、「もう教育費を考えなくていいから安心して自分のための第二の人生に取り組める」ということです。逆に言うと、もし45歳で定年して雇用不安になると分かっていたら、子どもを持たない選択をする人も増えるのではないでしょうか。

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