異例の新型コロナウイルス禍でほぼ無観客だった東京五輪とは対比的で、華やいでいた。8月8日夜、国立競技場の閉会式で3年後の開催都市パリがオリンピック旗を引き継ぐと、ライブ映像のパリ市では、セーヌ川をエッフェル塔と挟むトロカデロ庭園で市民と選手がはしゃいでいた。
パリ五輪が目指すのは、全ての人に開かれた大会。大会組織委員会のトニ・エスタンゲ会長と話をしていると「オープン」というワードが頻繁に出てくる。式典や競技をスタジアムから外へ開放し、市民が選手とともに参加できるようにして「大会への扉を開く。いかに人々を巻き込むか」と言う。カヌーの五輪金メダリストで43歳の若きトップに聞いた。(時事通信運動部 和田隆文)
トップ選手と遠隔レース
パリ五輪のオープン構想は、セーヌ川での開会式や市民ランナーも参加するマラソンにとどまらない。東京五輪でストリーミングなどデジタル視聴が伸びたことに絡み、「ただ試合を見るだけではなく、選手が五輪で争っているのと同時に、ファンがオンラインでパフォーマンスを比べられたら面白いし迫力がある。受け身だけでなく能動的になれるような経験を提供できれば」と語った。
自転車やボート、セーリングなどでは、オンラインのファンを競技会場とつなぐテクノロジーやツールが既にあるという。自身の自転車やボートをコンピューターに接続してペダルやオールをこぎ、五輪に出場しているトップ選手とレースやタイムを競う。エスタンゲ会長は「いくつかの国際競技団体(IF)とは取り組みを始めている」と話し、パリ五輪での実現にも含みを持たせた。
マラソンの市民選考は
疑似的な五輪参加は開かれた大会の一部でしかない。マラソンと自転車ロードレースでは五輪史上初めて競技と同じ日に同じコースで市民も走る「大規模」レースの実施に動いている。マラソンの市民ランナー選考については「比類なき経験をして大会の魔力を残してくれる人を」と述べ、マラソンのレベルやタイムだけを見ることはせず、大人から子供まで幅広く選ぶ方針だという。
セーヌ川での開会式を構想する狙いは、ルーブル美術館やノートルダム大聖堂、エッフェル塔などパリの象徴的な名所を巡るというだけではなく、「アクセスしやすく川岸からも見やすい」。五輪開幕を多くの市民とともに祝うのにふさわしい場所だからだという。一方では課題もある。
懸案は警備とチケット収入
実現すれば開会式は「何十万もの人々」が見るとされ、警備が懸案になる。エスタンゲ会長は「警備に関してリスクは取れない。オープンな五輪の開催という高い野心とのバランスを見つけることになる」とした上で、フランスが近年さまざまなテロ事件を経験してきた中で市街地開催の方法論を示し、ツール・ド・フランスなどスポーツや文化のイベントを実施してきた実績を挙げた。
組織委予算の約3割というチケット収入において、通例のスタジアムでの実施なら開会式が占める割合は大きい。式典を多くの人にオープンにしつつ、財源は守らなくてはならず、「開会式を市内(セーヌ川)でやるとしたら無料観覧とチケット入場を融合させることになる」と語った。
(2021年9月13日掲載)
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