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「夜のまち」がコロナ禍を乗り越えるために 銀座のママ・スナック研究者対談

2021年09月19日

 新型コロナウイルスの感染拡大に歯止めをかけるために緊急事態宣言が繰り返されたことで街が疲弊しています。特に営業時間の短縮や休業を要請されるなど狙い撃ちされた飲食業は青息吐息の状態です。飲食店は街並みを構成する重要な要素であり文化の担い手。そんな飲食店の状況と街の将来に危機感を持つ東京・銀座でクラブを経営する白坂亜紀さんと、東京都立大学教授で「夜のまち研究会(旧・スナック研究会)」代表の谷口功一さんのお二人に対談していただきました。

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―自己紹介がてらクラブやスナックとの出会いとその魅力について語っていただけますでしょうか。

谷口 わたしは大分県別府市の出身で、対談相手の白坂さんと同じ大分県民なんです。別府は非常に大きな観光都市で、その歓楽街があるところにわたしの実家があるんですが、子どもの頃は夜、温泉街としても栄えていたので、タクシーがずらっと光の川みたいに連なってるんですね。そこを観光客が浴衣を着て下駄を履いて肩が触れ合うぐらい歩いている。そこにはクラブとかスナックとかいろいろありますけど、子どもだから入れないわけですけど、あの扉の奥にはなにがあるのかなって、ずっと思い続けて育ってきました。

谷口 功一(たにぐち・こういち)東京都立大学法学部教授。1973年大分県生まれ。大学で法哲学などを教える傍ら、日本文学・美術史、政治思想史、法学など各方面の新進気鋭の研究者と共に、「日本の夜の公共圏」というテーマでスナックを研究。内外情勢調査会の講師も務める。主な著書に「ショッピングモールの法哲学―市場、共同体、そして徳」「日本の夜の公共圏 スナック研究序説」など。

 父は歯科医でやれ歯科医師会とか、やれロータリーとか言っていつも飲みに行ってたんだけれど、大人の男っていうのは普通に飲みに出るものなんだと思っていました。普通に家族づきあいしているスナックのママさんもいて、生活の自然な一部だったんですね。東京に出てくると成人になっても根無し草なのでスナックに行くことはなくて、バーとかには飲みに行ってたんですけれど、30超えたあたりからやっぱり自分の家の近くの地元で父親みたいに飲みたいなって思い始め、近所のスナックに行くようになって地元の人たちとの付き合いができるようになって、通勤の際に知り合いとあいさつするとか人間らしい生活ができてるなと思います。わたしにとって夜の街っていうのは日常生活の中の一部なんです。

白坂 わたしは大分県竹田市の出身で、別府より小さい街ですが、昭和の頃はとても活気があって、スナックとかクラブもありましたね。そして大学2年生ぐらいのときにクラブにスカウトされたんですが、当時はバブル景気で人手が足りなくて、いよいよ女子大生をスカウトする時代になっていたんです。わたしは子どもの頃から、友だちのお母さんがクラブで働いていたり、スナックで働いていたりしていて、わりと親しみを持っていたし、どんな世界か見てみたいなとも思いまして、スカウトされるままクラブで働くようになりました。まだ「水商売」には、女性が男性を酔っぱらわせてだますみたいなイメージがあったんですけど、全然そんなことはなくて、企業のトップの方々が来て、そこで社交だったり、社員教育だったりいろんなことをするんです。もちろんお客様とのお付き合いが主ですけども、人を育てる、そして社員を育てる、そしてわたしたちホステスも育ててくれるんですね。こんな場があるんだって、すごくそれが魅力でしたね。

白坂 亜紀(しらさか・あき)大分県生まれ。早稲田大学在学中に日本橋の老舗クラブに勤務、“女子大生ママ”となる。東京・銀座に2軒のクラブのほか、バーや日本料理店も経営する。銀座料理飲食業組合連合会理事、銀座社交料飲協会副会長、内外情勢調査会講師などを務める。主な著書に「銀座の流儀 ―『クラブ稲葉』ママの心得帖―」「セ・ラヴィ これこそ人生! 亜紀とあつこ『困難な時代の生き方』を語る」(共著)など。

 当時はまだ男女雇用機会均等法ができたころで、女性が大学を出て会社に入ってもまだ男女差がすごくて、わたしも新聞記者とかになりたかったんですけど、そうすると結婚もできない、子どもも産めない、男と同じになって働かなきゃいけない中で、水商売は女性らしく働けるし活躍できるのも魅力だなということで、大学を卒業してそのままそのクラブに就職というか、本業になりました。仕事を極めていくにつれ、やっぱり本当に魅力的な仕事だと感じました。普段出会えないような人との出会いや、また、そこでわたしたちの力によって新たな出会いを作る、常連さん同士を引き合わせたり、新しいビジネスを作るきっかけを作るお手伝いをしたり、そういう出会いと関係性の発展をサポートできるというところが魅力です。お店を銀座にオープンして25年になりますが、本当にやりがいのある仕事だなと思っています。

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