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「ネコの宿命」腎臓病の治療法を開発 「猫が30歳まで生きる日」 東大大学院・宮崎徹教授インタビュー

AIM活性化物質入りフードが商品化 ネコの腎臓病予防に期待

 「ネコの宿命」とされる腎臓病にタンパク質「AIM」を利用する治療法を開発した東京大学大学院医学系研究科疾患生命工学センターの宮崎徹教授は、不活性状態にあるネコのAIMを人間と同様に機能させる物質を発見した。総合ペットフードメーカーのマルカンと協力し、その物質を含むドライフードを開発、3月に発売することが決まった。AIM活性化物質を含むフードを摂取することでネコの生活はどう変わるのか、見通しを聞いた。(2022年2月22日掲載)

 ―ネコのAIMを活性化させるキャットフードが発売されるということに、ネコのオーナーさんたちの期待はかなり高まっているようです。

 最初にお断りしておかなければならないのは、この物質は「薬」ではありません。重い腎臓病を治療する薬として作られたものではないということです。

 ―それでは、どんな効果があるのでしょうか。

 まずは「予防」の効果です。機能するAIMを本来持たないネコは、生まれた瞬間から腎臓にゴミがたまり続け、その結果として慢性炎症が発生します。炎症が腎臓の細胞を徐々に壊し、成長とともに腎不全を起こすというのが多くのネコがたどる経過です。フードを通じて活性化物質を定期的に摂取していれば、一定量のAIMが常に体内で活性化してゴミを掃除しますから、炎症による腎臓の破壊を予防したり、軽くしたりすることはできると思います。ですから、まだゴミがたくさんたまる前の、なるべく若いうちから食べさせた方が効果はあると考えられます。

 ―AIMの「活性化」とは、どういうことですか。

 ネコも人間と同じように、血液中にAIMを持っています。ただ、AIMは通常、IgMという大きなタンパク質に結合しています。人間の場合、体内でゴミが蓄積してくると、それに反応してIgMからAIMが外れ、炎症を抑える働きをします。

 ―AIMがIgMから外れることを「活性化」というわけですね。

 はい。IgMにくっついたままでは、AIMのゴミ掃除機能は発揮できません。

 ―ネコでは体内にゴミがたまっても、AIMがIgMから外れないのはなぜでしょう。

 他の動物と違って、ネコ科の動物全般のAIMは、ものすごく強くIgMに結合する特徴を持っているからです。

 ―活性化物質は、その強固な結合を解く作用を持つのですね。

 そうです。まだ病気にはならないくらいの少量のゴミがたまってきた時点で、その都度ゴミを掃除しておけば、病気の発症を予防できるはずです。実は、定期的にAIMを活性化して、腎臓病をはじめいろいろな病気を予防できるような人間用のサプリメントを開発するために、AIM活性化を促進するような天然成分を数年前から探していたところ、この物質に行き当たりました。最初はネコのAIMにも効果があるとは期待していなかったのですが、実験してみると、驚いたことにネコでも一定割合のAIMが活性化することが分かりました。

 ―ネコへの効果はどの程度なのでしょうか。

 キャットフードを開発したマルカンと行った実験では、活性化物質入りのフードを1週間続けて食べたネコで、血中のAIMが数%程度活性化したというデータが取れています。

 ―数%というと少ないようにも思えますが、もともとゼロだった分、効果が期待できるということでしょうか。

 すでにゴミがたくさんたまり重篤な腎臓病になってしまっている場合、目に見えるような効果を期待することは難しいかもしれませんが、なるべく若いうちから長期的に摂取していれば、腎臓病を予防できる可能性は期待できますし、まだ軽症のうちであれば、進行を遅くすることはできるのではないでしょうか。

 ―この物質による副作用の恐れはないのでしょうか。

 この物質自体は、既に人間の食品添加物としても利用されていて、安全性が確認されています。

 ―なぜ、マルカンと開発したのですか。

 まだAIMの研究がそれほど注目されていなかった時期に、AIM入りキャットフードは作れないかと提案していただいたことがありました。その時のことが、今回の協力関係につながりました。

 ―AIM入りキャットフードはできないのでしょうか。

 AIMは「生」のタンパク質ですから、食品の添加物としては使えません。

 ―そうなると薬としてのAIMができないと、進行してしまったネコの腎臓病への十分な効果は期待できないわけですね。

 その可能性は高いですね。薬の方も、ネコに最適化した形での開発を進めています。もう少しお待ちください。

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