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「ネコの宿命」腎臓病の治療法を開発 「猫が30歳まで生きる日」 東大大学院・宮崎徹教授インタビュー

ネコ腎臓病薬、製品化に向け開発再開へ クラウドファンディングで資金調達も

 「ネコの宿命」とされる腎臓病の原因を解明し、その治療法を開発した東京大学大学院医学系研究科疾患生命工学センターの宮崎徹教授。ネコの腎臓病を治療できるタンパク質「AIM」を使った薬剤の製品化が、資金難でストップしているというニュースが配信されたのをきっかけに、東大には多くの人から寄付が寄せられた。(2021年8月8日掲載)

 ―短期間に億単位の寄付金が集まったことを、どのように受け止めていますか?

 正直なところ、かなり驚いています。

 ―このような反響は予想していなかったのでしょうか?

 はい。私たち基礎医学の研究者は、論文が評価されたり、何かの賞を頂いたりすることはあります。でも、それはあくまで研究者や学会という「身内」の評価で、それ以外の人たちには、研究の内容を知ってもらえることすら、ほとんどありません。

 ―外部から評価されること自体が珍しいわけですね。

 それが自発的な寄付という具体的な行動で示されるのは前代未聞です。

 ―それだけ研究への期待が大きいことの証明でもあります。

 その期待の大きさが分かって、ネコの腎臓病の治療薬としてAIM薬を製品化し、それを求めている人たちの手に届けなければいけないという強い責任感を、改めて感じるようになりました。もはや「お金がないから薬は作れません」では済まなくなっていると考えています。

 ―集まった寄付金で、ネコのAIM薬を製品化することはできないのでしょうか?

 ネコのAIM薬完成までに残された工程をすべて完遂するにはこの額でもまだ十分でないということもあるのですが、それに加えて今回皆さまから頂いた寄付金は、東京大学への寄付金です。それを使わせていただくに当たっては、あくまで「大学で行う研究」に使わなくてはなりません。利益相反などの原則に十分注意し、また大学の研究費を使う上での規則に従う必要もありますから、民間とタッグを組んで独自の創薬を進めてきた時のようなスピード感では進められないかもしれません。

 ―とすると、集まった寄付金は役に立たないわけですか?

 そんなことはありません。薬を作るにはスピード感だけがすべてというわけではなく、よりよい薬を作るための基礎研究をじっくり続けることも重要です。これまで開発してきたネコのAIM薬をさらにブラッシュアップする基礎研究には、非常に使いやすい財源になると思います。

 ―どのようなブラッシュアップなのでしょう?

 これまで開発してきたネコの腎臓病薬は、マウスのAIMタンパク質を用いています。マウスのAIMをネコに使っても効果があることは実証済みですし、開発を始めた時点ではマウスのAIMが最も効率よく作れたからです。ただ、マウスとネコでは「種」の違いがあって、マウスAIMを何回かネコに与えると、すべてのネコではないのですが、どうしても、マウスAIMに対する抗体ができてしまう子がいます。現在のところその抗体で、投与するAIM薬が効かなくなる(=中和される)ことはないと考えています。それでもアレルギー体質のネコの場合、徐々にアレルギー症状を起こす可能性もゼロではありません。

 ―ネコ自身のAIMから薬剤を作れば、そうした心配はなくなるのでしょうか?

 はい、そのような抗体ができることはなくなります。開発を始めた4年前から研究を積み重ねて、AIMに関する知見や技術も格段に進歩していますので、今では効果のあるネコAIMを大量に産生することも可能になっています。今回頂いた寄付金で、これまで開発してきたネコのAIM薬のアップグレードバージョンを確立するための基礎研究が十分行えると思います。

 ―そのアップグレードしたネコのAIM薬を製品として流通させるには、別の資金が必要になりそうですが、どのような調達法をお考えでしょう。

 はい。出資や融資を受けて、新たにビジネスを立ち上げることもできるかもしれません。でも、そうなると大きな利益を上げて事業としての採算を取る必要がありますから、薬剤の価格は高くなってしまいます。

 ―日本は「国民皆保険」の国なので、保険が適用されれば高い薬を庶民も使えますが、それは人間だけで、ネコはそうではありません。

 「ネコ皆保険」を目指すのは難しいでしょうね…。今まで避けてきた(その理由は東大基金のHPにある私のコメントを参照してください)クラウドファンディングなどの仕組みをいよいよ立ち上げて、資金を募ることも一つの方法ですね。そうして、私たちだけでなく、愛猫家の皆さんとみんなで作った薬剤として完成させれば、薬剤の原価を抑え、製品価格を誰でも手に入れられるレベルにできるかもしれません。

 ―そのためには、大学の基金とは別の受け皿が必要になります。

 そうなりますね。そういった、みんながハッピーになる仕組みができないか、いろいろ考えています。

 ―十分な資金が集まった場合、どの程度の期間で薬剤を製品化できますか?

 それは答えるのが非常に難しい質問です。薬を作る研究は必ずしも予定通りに進むものではありませんから…。

 ―もし、何の問題もなく、ブラッシュアップと治験が進んだとすればどうでしょう。

 その仮定を置いてですが、開発を再開してから2年あれば製品化は可能だと思います。

 ―いずれにせよ、十分な資金を集める必要があります。

 はい。寄付をしてくださっている皆さまのお気持ちに応えるためにも、なりふり構わず頑張って一刻も早く開発を再開し、よりよいネコのAIM薬ができるように尽力したいと思います。これからも応援をよろしくお願いいたします。

◆猫腎臓病治療薬に寄付殺到、愛猫家の熱意受け、開発再開へ 作家・瀬名秀明氏と宮崎徹・東大大学院教授が対談◆

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