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「ネコの宿命」腎臓病の治療法を開発 「猫が30歳まで生きる日」 東大大学院・宮崎徹教授インタビュー

「ネコのおやつ」で腎臓病予防も AIMを活性化する成分発見

 「ネコの宿命」とされる腎臓病にタンパク質「AIM」を利用する治療法を開発した東京大学大学院医学系研究科疾患生命工学センターの宮崎徹教授は、人間のように機能しないとされてきたネコのAIMを活性化する成分を発見、それを含むネコの「おやつ」やキャットフードの商品化を目指している。先天的に慢性腎臓病を発症しやすいネコが、生まれた直後からAIM活性化成分を摂取すれば、薬剤に頼らなくても生涯を健康に過ごせる可能性が高まる。(2021年7月25日掲載)

 ―人間のように機能しないネコのAIMを「活性化する」とは、どのようなことなのでしょう。

 人間もネコもAIMは血液中に単体で存在しているわけではありません。通常は「IgM五量体」という大きなタンパク質と結合しています。

 ―そうすることで何か利点があるのでしょうか?

 サイズの大きいIgM五量体と結合することによって、AIMが尿中に排せつされることもなくなり、血液中で安定的に大量のAIMをストックすることができます。

 ―AIMがIgM五量体から外れるのは、どんな時でしょう。

 体の中にゴミがたまり始めて病気が起こってくると外れます。腎臓の場合は、尿細管と呼ばれる尿の通り道の最初の部分がゴミで詰まってしまい、組織が炎症を起こすとAIMは外れます。

 ―AIMは炎症の原因になっているゴミに張り付いて、片付け役の貪食細胞にゴミの場所を知らせる働きがあることは、以前にうかがいました。

 ネコのAIMは、IgM五量体に接している部分のアミノ酸配列の特徴が人間や他の動物とは異なっていて、尿細管が詰まって炎症が起きてもIgM五量体から外れないのです。IgM五量体に結合したままでは、尿の通り道にあるゴミまで到達できませんし、ゴミにくっつくこともできません。

 ―そうなるとゴミが片付けられず、炎症が広がって腎臓の組織が徐々に壊れていくわけですね。

 「活性化」というのは、ネコのAIMをIgM五量体から外すことを意味します。AIMが外れれば、人間と同じように腎臓の中のゴミを取り、炎症を抑えることができるでしょう。

 ―今回見つかったのは、ネコのAIMを活性化する成分ということですが、いったいどんなものなのでしょう。

 「果物の王様」と呼ばれるドリアンから抽出できる成分で、既に食品添加物として流通しています。AIM製剤のように大規模な培養施設が必要なわけではありませんから、断然低価格で手に入ります。

 ―その成分をネコのおやつやキャットフードに混ぜればいいわけですね。

 簡単に言えばそうなりますが、どのくらいの量を摂取させるのが適切か、どのような形状の物がいいのかなど、いろいろ検証が必要です。それに薬と違い、ネコはあくまで「食事」として摂取するわけですから、ネコの口に合う味でなくてはならないのです。

 ―ドリアンには独特の味やにおいがあります。

 飼い主さんが「良かれ」と思ってAIMを活性化させる成分入りのおやつや食事を用意しても、ネコが見向きもしなければ、何の意味もありません。現在、ペットフードのメーカーと開発中で、できるだけ早いうちに商品化したいと考えています。

 ―どうやってその成分にたどりついたのでしょう。

 もともと、人間用のサプリメントにできないかと、ある企業と人間のAIMを活性化する成分を探していたのです。

 ―人間のAIMは、IgM五量体から外れるのでは…。

 調べてみると、病気にかかった時もすべてのAIMがIgM五量体から外れるわけではないことが分かりました。AIMをよりたくさん外してあげれば、より多くのゴミを取って治療効果があるでしょう。それ以上に、健康な状態で定期的にAIMをIgM五量体から外して活性化させると、まだ病気にはなっていないという段階から、たまり始めたゴミを定期的に掃除できることになります。そうすれば、体にゴミがたまらず、ずっと健康でいられるのではないでしょうか。例えて言えば、目立った汚れはなくても、定期的に水を流していれば、トイレがきれいに保てるのと似ています。まさに予防医療だと思います。

 ―IgM五量体から外れるAIMの量が増えれば、「ゴミ掃除」の機能が強化されて病気になりにくくなるわけですね。

 ただ、もともと血中のAIM量が少ない人や、病気でたくさんのAIMが必要な時には、体外から「薬」としてのAIMを入れなければなりません。

 ―AIMを活性化する成分は、あくまで健康増進や病気を予防することが主な目的になりそうですね。

 ドリアンから抽出した成分が、人間のAIMを活性化することが確認できた時、ネコのAIMは構造が違うので効かないだろうと思いました。でもある日、手元にあったネコの血液にその成分を混ぜてみると、見事にIgM五量体からAIMが外れたので驚きました。現在、その活性化成分を人間用のサプリメントにする研究も進めているのですが、ネコの方でも需要は高いかもしれません。

 ―AIM活性化成分入りのおやつやキャットフードを、子ネコの時から食べていれば、腎臓病は発症しないのでしょうか。

 少なくとも発症の可能性は低くなるはずです。飼い主さんにとっても、ネコが健康で過ごすことが何よりだと思います。

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