破壊された五輪の根幹 坂上康博氏に聞く

2021年08月17日17時44分

変わりそうにない五輪

 ―もしもコロナがなくて去年の夏に開催していたとしても、相当な批判を受ける五輪でした。その視点は忘れてはいけないと思います。

 「何を失ったのか、失いかけたのか。開催経費が延期による追加も含めると1兆6000億円。さらに全都道府県が負担した聖火リレーの経費、ホストタウンの経費、インフラ整備も入れると総経費は3兆円を超えるといわれる。さらにマンパワーもすごい労力を割かれましたが、少なくとも金だけでもこれだけ投入した。それでいながら、人と人との接触や国際交流とか、五輪本来の理念に沿った平和貢献につながるような根幹が失われたことなど、一切合切合わせてどれだけの損失をしたのか。バッハ会長はIOC総会で『正しいタイミングで開催された』と言いましたが、日本が受けた損害を全く考慮していません。バブルの中で無事やれましたというだけの評価で済まされたら駄目です。このタイミングでなかったら、その損失をどれぐらい免れたか。その上でこの五輪を評価しなければいけない」

◇コロナがなくとも問題だらけ

 ―もしかしたら、障害者差別を自慢した人物が関与した式典がそのまま行われていた。損害だけでなく恥もさらしました。延期が決まった際、五輪のあり方を考える時だとも言われましたが、ずっと続いてきた巨大化批判も吹っ飛んだ感があります。国民の間に開催反対の声が高まったのには、水際対策が緩いといわれる中で、こんなに大勢の外国人を受け入れるのかという、素朴なスケール感があったと思います。コロナでカネだけではない巨大化の側面が現れました。これで五輪は変わっていくでしょうか。

 「24年がフランス、28年が米国、その次までオーストラリア(ブリスベン)と、無難に開催できそうな国に決めてしまいました。だから抜本的な見直しは難しいのでは。ただ当面はそうでも、長期的に見ると明らかに支持は低下していくと思います。独自性はもはや多競技多種目を一堂に行うことくらいで、本来の平和貢献といった理念がすごく薄れ、テレビ視聴率をウリにしていて、スポーツのまっとうな発展という点でもすごく歪んできた。一番のショック療法はテレビが五輪を手放すことだと思いますが」

 ―まだパラリンピックもありますし、今大会に対する公正な評価がなされるように、論点や材料が示されなければならないと思っています。

 「『やってよかった』というのは、コロナでいろいろ制限があったけれども、自然災害だから仕方ないでしょうという意味ですよね。問題は人災の部分がかなり大きいということです。避けられたはずのものが相当ある。人災という認識をきちんと持つ必要があると思います」

 ―2年間、ありがとうございました。

 ◆坂上 康博(さかうえ・やすひろ) 1959年生。一橋大大学院社会学研究科・社会学部教授。専攻はスポーツ史、スポーツ社会学、スポーツ文化論。著書に「権力装置としてのスポーツ」「スポーツと政治」、編著に「12の問いから始めるオリンピック・パラリンピック研究」など。

※取材はオンラインで行った。

(2021.8.19掲載)

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