生産者と農作物の写真を載せた「農カード」。名刺サイズで手に取りやすく、思わず集めたくなってしまう。岐阜県の富有柿専門農家である西垣農園5代目の西垣誠さん(39)らが、新型コロナウイルス禍の中で店頭販売に加えてインターネット販売を増やしていきたいと発行を始めたものだ。現在、150人以上の農家や農業関係者が農カードを発行している。農作物を販売する際の「おまけ」として添えていた農カードだが、スタートから1年がたち、公式ツイッターを活用してラジオの配信も始めるなど、賛同する若手農家同士の連携や相互の販売促進につながる動きが出てきている。(岐阜支局 土井はるか)
昨年8月、愛知県でミニトマト栽培を手掛ける、おがわ農園の小川浩康さんが、「漁師カードの農業版をやりたい」とツイッターで呼び掛けた。漁師カードは、青森県が海産物の知名度向上や消費拡大を目的に漁師を写真とともに紹介する名刺サイズのカード。もともとツイッターで小川さんと交流のあった西垣さんや北海道のミニトマト農家の川合秀一さんが反応し、農カード作りが始まった。西垣さんがデザインや レイアウトを担当。漁師カードを参考に試作品を完成させツイッターで参加者を募集すると、70を超える農家から応募があった。
8月は柿農家にとって比較的仕事の少ない時期ではあるものの、西垣さんはこれまでデザインやレイアウトを経験したことがなかった。70を超える農家のデータ作成は容易ではなく、「実務的な部分ではそれが一番しんどかった」と振り返る。一方で、デザイン原案の提案などをスピーディーに行ったのが奏功して、農カードの製作は順調に進み、同月下旬に発行を始めることができた。
農カードの表面には、生産者が農作物を持った姿など思い思いの写真と氏名、事業内容を記載。裏面には、インターネット交流サイト(SNS)のアカウントやネット販売のページにつながるQRコード、農カードプロジェクトのホームページ(HP)につながるQRコードを載せている。農作物の購入者で希望する人に配布し、ネット販売でも希望する購入者には商品に同封している。コレクター向けに、現在は1農家当たり5種類までデザインが用意されている。印刷は、プロジェクトに賛同したアサヒ印刷(青森県弘前市)が手掛ける。商品と同封することもあるため、カードの両面に抗菌加工を施している。
消費者に選ばれるために
農カードの発行を始めたのは、新型コロナの影響で「農家もネット販売に力を入れていかないといけない」と意識した時期で、農家や漁師が食材を出品する電子商取引(EC)サイトも増え始めていた。ECに登録しても、同じ農作物が並んでいれば消費者に選ばれなければならない。「商品名の前に『農カード付き』と入れることによって、何か付いてくるんだと知ってもらって、そこで生産者のページを見てもらえたら十分」と西垣さんは話す。
農カードは農家ごとにナンバリングされているほか、トレーディングカードのようにコレクション性を持たせるデザインに仕上げている。農カードのメンバーから買った消費者が、農カードつながりで別のメンバーの農作物にも関心 を持ってもらうことを期待している。
農カードを店頭に置いておくと、カードを全く知らない人から「何これ面白い。欲しい」と声を掛けられたり、単刀直入に「カードを下さい」と言われたりするという。西垣さんは「全体の注文数と比べるとそんなに多くはないが、農カードによって、販売数自体は通常より上がっている。他のメンバーに聞いても、(農カード)目当てで商品を買ってくれる人が増えたといった声を結構聞く」と語る。多いところでは既に2500枚配布した農家もいるという。
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