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小児へのコロナワクチン接種 保護者の正確な理解不可欠

積極的な米国

 かくのごとく、米国では小児への接種を積極的に推進している。ただ、小児に対するコロナワクチンの有効性や安全性については、数千例の臨床試験が二つ報告されているだけだ。長期的な安全性や稀(まれ)な副反応については不明で、現時点で判明することには限界がある。

 では、何が問題となりうるだろうか。世界の専門家の関心を集めているのは心筋炎・心膜炎だ。心筋炎・心膜炎は、ウイルス感染に伴う自己免疫反応や、コロナ以外のワクチン接種後にも発症することが知られている免疫合併症だ。多くは無症状あるいは軽症で、後遺症なく治癒するが、稀に重症化することがある。

 6月10日にCDCは、30歳以下でファイザーあるいはモデルナ製のmRNAワクチンを接種した人のうち、475人が心筋炎・心膜炎と診断されたと発表した。ほとんどは後遺症なく回復しているが、15人は依然として入院中で、3人は集中治療室に入っていた。特記すべきは、大半が2回目接種後の若年者に起こっていたことだ。このことについては、イスラエルからも同様の研究結果が報告されている。

 では、子どもたちへのワクチン接種はどうすればいいのか。接種希望者や保護者と相談し、個別に判断するしかないが、現在、医学的な根拠をもって議論できる12歳以上に関しては、私はトップアスリートを目指すような一部の子どもを除き、ワクチン接種を勧めることにしている。

 トップアスリートを例外とするのは、彼らには高い心肺機能が求められるからだ。心筋炎の後遺症が問題となる可能性がある以上、慌てて打つ必要はない。もう少し待てば、対処法も分かってくるだろう。

 ただ、多くの子どもたちにはこのような議論は不要だ。心筋炎の頻度はそもそも稀であり、万が一罹患(りかん)しても多くの場合、後遺症は無視できるレベルだ。ワクチンの副反応を恐れて接種を控えるより、ワクチンを打ち、普段通り勉強し活動する方がいい。

 世界の動きは速い。6月21日、イスラエル政府は12~15歳へのワクチン接種の推奨を決定した。その前日に日本の文部科学省が、接種への同調圧力を恐れて、学校での集団接種を推奨しないと発表したのとは対照的だ。判断の基準がワクチンの効果や安全性でないのが日本らしい。

接種推進の自治体も

 日本でも、一部の自治体は小児への接種を推進している。筆者が接種をお手伝いしている福島県相馬市では、6月19日から高校生を対象とした集団接種が始まった。中学生については、夏休みに集団接種と医療機関での個別接種を併用して接種を進める方針を明らかにしている。

 文科省が躊躇(ちゅうちょ)する傍ら、なぜ相馬市では子どもたちに集団接種できるのか。それは、相馬市で成人に対する集団接種が進んでいるからだ。6月1日からは基礎疾患のない64歳以下の市民に対する接種が始まり、7月17日には集団接種を終える予定だ。既に多くの保護者が接種を済ませている。

 子どもたちのワクチン接種を促進するには、社会および保護者のワクチンに対する正確な理解が欠かせない。コロナワクチン接種を進める世界各国で大きな障害となっているのが、アンチワクチン運動だ。ウェブサイトやSNS(インターネット交流サイト)では、「ワクチンを打つと不妊になる」や「遺伝子が書き換えられる」といったデマが溢(あふ)れている。医師や政治家の中にも、過度にコロナワクチンの危険性を喧伝(けんでん)する人もいる。このような偏向した主張が、多くの人々を不安にさせ、ワクチン接種を躊躇させる。子どもたちへの接種では特に問題になりやすい。この結果、ワクチン接種が停滞し、集団免疫に到達するまでに要する時間が延びたり、あるいは集団免疫に到達できなくなったりする。アンチワクチン派対策は、世界が抱える公衆衛生における重大な課題だ。

 実は、世界ではこんなことに対しても実証研究を進めている。5月25日、『米医師会誌(JAMA)』は「信頼とワクチン接種、米国における10月14日から3月29日の経験」という論文を掲載した。論文の結論は、至極真っ当なものだった。著者たちは、米国では当局がワクチンを適切な手続きを経て承認し、大量接種を粛々と進めることで、社会のワクチンへの信頼が醸成されたと結論付けている。着実に接種を進めることが、アンチワクチン派の勢力抑制につながるということだろう。

 まさに相馬市がやってきたことだ。相馬市でお会いする市民の中には「ワクチンを打って良かった。子どもたちにも勧めたい」という保護者が少なくない。

 子どもたちへのコロナワクチン接種については、いろいろな考え方があるだろう。保護者と子どもたちで相談して決めればいい。ただ、状況を総合的に考えれば、私はワクチン接種を勧めたい。リスク以上にメリットが大きいからだ。未成年時の1年間は大きな意味を持つ。ワクチンを接種し、勉強や課外活動に勤(いそ)しんでもらいたい。

(時事通信社「厚生福祉」2021年7月13日号より)

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