会員限定記事会員限定記事

小児へのコロナワクチン接種 保護者の正確な理解不可欠

NPO法人 医療ガバナンス研究所 理事長・上 昌広

 遅ればせながら、わが国でも新型コロナウイルス(以下、コロナ)のワクチン接種が進んでいる。7月5日現在、国民の25.7%、2回接種を終えたのは14.5%だ。1カ月間でそれぞれ13.2%、10.7%増加した。

 外来診療をしていると、ワクチンについて聞かれることが増えた。最近多いのは「子どもにワクチンを打たせても大丈夫ですか」という質問だ。7月中には多くの自治体で高齢者の接種が終わる。各地で、子どもたちへの接種の議論が進んでいる。

 現在、日本での感染の中心であるアルファ株(英国株)は小児も感染しやすく、重症化しやすい。今年3月から4月にかけて、アルファ株の感染が拡大した米国では、小児の入院が人口10万人当たり0.6人から1.3人へと増加した。その約3割は集中治療室での管理が必要だった。小児は感染しにくく、万が一感染しても大部分は無症状か軽症であるといわれた第1波の頃とは全く状況が変わっている。

 今後、感染拡大が予想されるデルタ株(インド株)について十分なデータはないが、人口の6割がワクチン接種を終え、感染が収束したと考えられていたイスラエルで、ワクチンを打っていない子どもを中心にデルタ株による流行が再燃していることは示唆に富む。今夏、デルタ株による第5波が日本を襲えば、多くの子どもたちが感染することになるだろう。アルファ株同様に、その一部は重症化するかもしれない。保護者が不安になるのも宜(むべ)なるかなだ。

 患者さんたちの関心はこれだけではない。子どもを起点とした家庭内での感染拡大も気になるようだ。高齢者や基礎疾患を有する家族がいる場合はなおさらだ。

 6月28日、東京都は新規感染者を317人と発表したが、感染経路が判明している121人中、75人が家庭内感染だった。職場内27人、会食19人を大きく上回っている。家庭が感染拡大の中心になるなら、家族から子ども、子どもから家族にうつすこともあるだろう。家庭内の感染対策は、子どもも含めた検討が必要になる。つまり、子どもへのワクチン接種を検討しなければならない。

 ところが、コロナワクチンには副反応があり、安全とは言い切れない。子どもに接種していいのだろうか。そこで冒頭のような質問となる。

 結論から言うと、私は基本的には接種を勧めている。それは、ワクチンを打つことで感染が予防でき、子どもたちの活動の制約が解除されるとともに、家族も安心できるからだ。

 ファイザー製のワクチンは、2回接種を終えればアルファ株に対しても95%程度の確率で感染を予防でき、万が一感染しても軽症で済む。今夏、日本での感染拡大が危惧されているデルタ株に対しても、一定の効果が報告されている。

 ワクチン接種が進めば、規制は緩和される。例えば、米疾病管理センター(CDC)は、ワクチン接種を完了した人は、原則としてマスクを着けたり、社会的距離を取ったりする必要はないという見解を示している。米国では、ワクチン接種を推進するためのインセンティブとして、このような規制緩和を進めている。

 規制緩和は、成人以上に子どもたちへの影響が大きい。このことは改めて説明の必要はないだろう。子どもの頃の1年と、大人になってからの1年では濃密さが違う。

無視できない教育への影響

 教育への影響も無視できない。感染拡大を防ぐためリモートで授業を行えば、iPadなどのIT器機を購入できる裕福な家庭の子どもと、このような器機を準備できない困窮した家庭の子どもで、大きな格差が生じてしまう。教育格差は賃金格差や健康格差を生じ、社会の格差を固定してしまう。子どもたちには対面による教育環境を整備しなければならない。そのためにも、ワクチン接種は欠かせない。

 ただ、子どもへの接種には懸念もある。それは安全性だ。将来のある子どもたちへの接種は慎重でなければならない。では現在、どの程度までリスクが分かっているのだろう。結論から言うと、かなり安全だが、リスクは否定できない。

 臨床医学では、医薬品の安全性や有効性は臨床試験で検証する。ワクチンも例外ではない。ファイザー製のコロナワクチンの場合、12~15歳の小児を対象とした臨床試験の結果が5月27日に米『ニューイングランド医学誌(NEJM)』で報告されている。

 『NEJM』は世界最高峰の医学誌とされ、この雑誌に掲載された研究は信頼度が高いと考えられている。

 この臨床試験では、小児2260人がワクチン群とプラセボ群にランダムに振り分けられ、効果および安全性が評価されている。ちなみに、投与量は成人と同じ30μgだ。発達途上の12~15歳に成人と同量のワクチンを打てば、過量になるかもしれないという懸念があった。

 この試験では、2回目接種後の38度以上の発熱が20%で、倦怠(けんたい)感が66%で認められたが、これは18~65歳を対象とする先行試験での17%、75%と同レベルで、懸念された副反応は問題とならなかった。

 一方、効果に関しては、プラセボ群では16人がコロナに感染したのに、ワクチン接種群では誰も感染しなかった。有効性は100%ということになる。安全性、有効性ともに有望な結果だ。

 ファイザーと並びワクチン開発をリードする米モデルナの報告も同様だ。彼らが5月25日に発表した臨床試験には12~18歳の約3700人が登録されたが、2回目接種後のコロナ予防効果は100%で、副反応も大きな問題とはならなかった。

 このような臨床試験の結果を受けて5月10日、米食品医薬品局(FDA)は12~15歳に対するファイザー製ワクチンの緊急使用許可を認め、6月10日にはモデルナもFDAに緊急使用許可を申請した。

解説◆新型コロナ バックナンバー

新着

会員限定


ページの先頭へ
時事通信の商品・サービス ラインナップ