サッカーの世界的名門チーム「FCバルセロナ」所属でフランス代表でもあるデンベレ選手とグリーズマン選手。彼らの人種差別発言が問題になっているのは、皆さまご存じの通りだ。
ただし彼らの母国であるフランスに20年以上住み、フランス語と日本語の通訳・翻訳を生業とする私から見ると、その「日本語訳」が独り歩きしてしまっている感も否めない。
そこで今回は彼らの発言の「忠実な訳」とともに、その背景やフランス社会についてもお伝えしたい。
◆デンベレ発言の正しい訳
2021年6月29日、インターネット上にグリーズマン選手とアジア系男性数人が映っている動画が流出した。撮影者はデンベレ選手で、映っているアジア系男性らに向けられたデンベレ選手のフランス語による発言が、人種差別的だとして問題になっている。
撮影現場は19年夏の日本。FCバルセロナの日本遠征時の宿泊先のホテルの一室とみられる。
3人の日本人男性が、デンベレ選手、グリーズマン選手の要求に応えてだろう、テレビで「PES」と呼ばれるサッカーゲームを遊べるようにしようとしているが、機器の接続か設定がうまくいかない様子で、日本人スタッフが四苦八苦している様子が見て取れる。
(以下のフランス語部分は、フランスメディアLe Parisien 7月5日付から引用)
その様子を見て、デンベレ選手が
<Toutes ces sales gueules... Pour jouer à PES...><T’as pas honte ?>
「PESやるために、この汚いツラが総がかりかよ」「恥ずかしくね?」
ここでカメラを向けられたグリーズマン選手はにっこり。
その後ホテルのスタッフの顔がズームになり、理解できない日本語に不機嫌になっているのか、デンベレ選手が
<Oh putain la langue ! Vous êtes en avance ou vous n’êtes pas en avance,dans votre pays ?>
「なんつー言葉だ、あんたたち、あんたたちの国でイケてる方なの、そうじゃないの?」という発言が続いている。
ゲーム機をうまく接続できないので、「この(ゲーム機を接続する)程度のこともできないの?」と言いたかったのだろう。
すでにネット上には、いろいろな訳が散在しているが、前後の会話がないのと、デンベレ選手の発言はどうとでも取れる言葉なので、想像で補って訳すしかなく、そのためにいろいろな訳が出てきたのだと思う。しかし、このフランス語を聞く限りにおいては、上記の訳がふさわしいはずだ。
「君たちは技術的に進んでいるのか、いないのか。国としては発展しているはずだよな?」という訳がネット上にあるが、文法的にも内容的にも、このフランス語原文だけでこのようには訳せず、意訳し過ぎだと思う。
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