ミャンマーの暦で新年が明けた2021年4月18日の午後7時半ごろ、ミャンマー最大都市、ヤンゴン。私服姿の男に率いられた8人ほどの警察官が、筆者の自宅兼事務所を家宅捜索し、カメラやパソコンを押収した。さらに筆者もTシャツ、ジーパン姿で連行され、悪名高いインセイン刑務所へ収容された。そしてその後、1カ月弱にわたり拘束されることになった。その経験の一端を紹介したい。
◆令状なく、容疑尋ねても「黙れ」
家宅捜索に入った警察官を指揮する男は、獲物を捕らえたという高揚感からか、ひどく興奮していた。
筆者は、ドアを開けてライフルで武装した警察官の「POLICE(警察)」というステッカーを目にして、思わず後ずさりした。そして、「抵抗しない。だから、一人だけ部屋に入ってきてくれないか」と訴えたが完全無視され、警察官を指揮する男は「座れ、しゃべるな」と英語で怒鳴った。筆者が両手を挙げひざまずくと、男は顔を近づけ、「お前一人か」「パスポートは」「このミャンマー人を知っているか」などと次から次へと質問を投げ掛けてきた。
筆者が「黙秘したい。まず大使館に連絡したい」と告げると、男は「ははは、黙秘するって。やってみろよ、そう報告してやるよ」と笑った。後に、軍の情報将校であると明らかになる彼は、筆者の部屋の中からクーデターへの抗議のビラなどを見つけると、勝ち誇ったように笑顔を浮かべ、「これは何だ。どうしてお前はこんなものを持っているんだ」と迫った。そして、30分ほど捜索が行われた後だろうか。「ついて来い」と言われ、連行されることになった。捜索令状も逮捕令状もなく、何の容疑かと聞いても「黙れ」と怒鳴られるだけだった。
ミャンマーでは、人がいつの間にかいなくなってしまうことがある。捜査当局は、住民を逮捕しても発表せず、家族からの問い合わせにも応じない。筆者は誰にも知られないまま拘束されることを恐れ、アパートを出て警察のトラックに乗せられるまで、手を挙げてゆっくりと歩き、周囲のアパートのバルコニーを見回した。だれか自分に気付いて、助けを求めてくれると期待したからだ。解放されてから知ったことだが、その後あっという間に「日本人ジャーナリストが逮捕された」というニュースがインターネット交流サイト(SNS)上を駆け巡ったという。
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