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井上尚弥、「4団体統一」へ視線ぶれず ライバル2人の目の前で圧勝KO

見せつけたモンスターの強さ

 世界ボクシング協会(WBA)、国際ボクシング連盟(IBF)バンタム級統一王者の井上尚弥(28)=大橋=が、米ネバダ州ラスベガスでIBF同級1位の指名挑戦者マイケル・ダスマリナス(フィリピン)を3回2分45秒KOで退け、順当に王座の防衛に成功した。2019年にワールド・ボクシング・スーパー・シリーズ(WBSS)の決勝で激闘を演じた世界ボクシング評議会(WBC)王者のノニト・ドネア、世界ボクシング機構(WBO)王者のジョンリール・カシメロが試合を見詰める中、格下を相手に左ボディーブローで3度ダウンを奪う圧勝。WBC、WBOのベルトを持つフィリピン勢2人に、日本の「モンスター」が圧倒的な強さを見せつけた。世界主要4団体統一チャンピオンへ、視線がぶれることはない。(時事通信ロサンゼルス特派員 安岡朋彦)

◇ ◇ ◇

 「あなたにとって、4団体統一はどういう意味を持ちますか?」

 ダスマリナスとの一戦は6月19日。その2日前に行われた公式記者会見でのひとこまだ。壇上には司会者と井上尚、プロモーターのボブ・アラム氏、そして指名挑戦者のダスマリナスもいた。司会者が井上尚に対し最初に尋ねたのは、目前に迫った防衛戦のことではない。まだ時期も相手も決まっていない統一戦に関する質問だった。

 格と地力の違いなどから、井上尚の防衛は確実とみられていた。この場面に象徴されるように、周囲の関心は今回の防衛戦よりも、来るべき統一戦の方に向いていた。当の井上尚も、この状況をしっかりと受け止めていた。

 「やりにくさはない。自分もそこ(4団体統一)は見据えているし、そこがゴールではない。もちろん油断はしていないが、この試合の位置付けは、この先の統一戦(へのステップ)になる」

 公式会見の終了後には、会場に姿を見せたドネアと顔を合わせた。この際、メディアの記念撮影に応じるために、ドネアが持ち出したWBCのベルトを井上尚が冗談めかして取り上げようとする場面があった。この行動はジョークとはいえ、目標はあくまで他団体のベルト。統一戦を強く意識しながら、防衛戦に臨んだ。

30秒足らずで主導権

 「油断はしていない」との言葉通り、井上尚は隙のない戦いでダスマリナスを圧倒した。1回の序盤。相手サウスポーが繰り出した右ジャブに、強烈な左フックを合わせる。頭部をかすめたこのパンチの直後に、「ダスマリナスの表情に、ちょっと気が引けたような感じがあった」。最初のゴングが鳴ってから30秒足らず。ここで早くも自身の優位を確信したという。

 2回以降は、前に出られないダスマリナスに対し、井上尚がボディーを徹底的に攻めた。

 「思った以上に出てこないというか、ちょっと距離を取るような出方をしてきた。顔でのKOには時間がかかるかなと思ったので、その段階でボディーに切り替えた」

 その2回に最初のダウンを奪う。左ボディーブローを相手の右脇腹をかすめるようにして打ち抜いた。かつてミニマム級の世界チャンピオンだった所属ジムの大橋秀行会長によれば、この種のパンチは「(痛みが)じわーっとくる」。ダスマリナスは、少し時間を置いてから脇腹を押さえてマットに膝を突いた。

 戦いは3回に早くも決着を迎える。今度はたたきつけるように、強烈な左ボディーブローを打ち込んだ。ダスマリナスは再び脇腹を押さえて倒れる。苦悶(くもん)の表情を浮かべながら、何とか立ち上がったところでまたしても左ボディーブロー。ここでは脇腹をガードする右肘の位置がわずかにずれた隙間を正確に打ち抜き、3度目のダウンを奪って試合を終わらせた。指名挑戦者を全く寄せ付けない圧勝だった。

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