東京五輪のフェンシング日本代表で、男女それぞれの最年長選手は家族に支えられながら大舞台を踏む。35歳で3度目の五輪を迎える女子エペの佐藤希望(大垣共立銀行)と、37歳にして念願の初出場となる男子サーブルの島村智博(警視庁)。2人はそろって、開会式翌日の7月24日に日本チームの先陣を切って個人戦に臨む。ベテランの奮闘が、後続の代表選手への起爆剤になるか。(時事通信運動部 山下昭人)
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女子エペの日本勢でただ一人の出場となる佐藤は、「ママアスリート」でもある。2012年ロンドン五輪に最終予選を勝ち抜いて初出場(当時は旧姓の中野)。同五輪後に結婚して13年に長男の匠(たくみ)君を産み、競技に復帰して16年リオデジャネイロ五輪切符を勝ち取った。本番では、ロンドン五輪金メダルのヤナ・シェミャキナ(ウクライナ)を破る殊勲の星を挙げて8位に入賞した。
男の子2人を抱えて
「五輪に出場するのはフェンシングを始めた時からの目標でもあって。ロンドンの時はちょっと一つ夢がかなったなという感じでした。2回目の五輪はゆとりがあったのか、多少経験が味方してくれたのかな。相手が緊張しているなあと感じました」
30歳で出場したリオ五輪の後、現役を続けるかどうか決めかねていた佐藤の背中を押したのは、「後悔してほしくない」と望む母の中野雅代さん(63)や夫の充さん(45)だった。日本から遠いブラジルには匠君を連れていけなかったこともあり、地元の東京五輪を目指す気持ちが固まった。
17年に次男の旬(しゅん)君を出産。2度目のブランクを経て18年に復帰し、見事に五輪切符をつかんだ。福井・武生商高の諸江克昭顧問(現日本フェンシング協会理事)の下で同様にフェンシングを学んだ見延和靖(ネクサス)、徳南堅太(デロイトトーマツ)、青木千佳(ネクサス)の後輩3人も、リオに続き五輪代表入り。「私だけ行けないかもと思っていたけど、後輩たちのおかげで頑張れた」と振り返り、「やっぱり次はメダルを目指したいです。ママがオリンピック選手だと記憶に残ってもらえるような大会にしたいなと思います」と意気込む。
「珍しさ」がなくなるといい
新型コロナウイルスの影響で幼い2人を福井県越前市の実家に預けて離ればなれの暮らしになっているが、以前は匠君を味の素ナショナルトレーニングセンター(東京都北区)の託児室に預けて練習することもあった。「子どもがいることによって時間配分が上手になったし、子どもに負ける姿を見せられない。出産したら弱くなったとも言われたくない。トレーニングや体づくりは他の選手よりやっていると思います」。息子の存在が競技に懸ける原動力になってきた。
「負けず嫌いで、子どもとの遊びでも負けてあげないんです」。笑ってそう明かす佐藤には、女性アスリートのモデルとしての期待も寄せられている。「子どもがいるアスリートが珍しいとか、そういう社会じゃなくなるといいなと思いますね。少ないから目に付くんだなと思います。大変なこともありますけど、やってよかった。競技ができる環境があるなら、そういうアスリートが増えてくれるといいなと思います」
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佐藤 希望(さとう・のぞみ) 福井県出身の35歳。福井・武生商高でフェンシングを始め、日体大に進学。現在は大垣共立銀行に所属。五輪3大会連続出場で、2016年リオデジャネイロ五輪では女子エペの日本勢で初の入賞(8位)。全日本選手権で6度優勝した。173センチ、62キロ。
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