陸上の日本選手権で一躍注目を集めた男子短距離の新星が、東京五輪400メートルリレーの日本代表に選出された。東海大4年のデーデー・ブルーノ(21)。日本選手権の100メートルで9秒台の自己記録を持つ有力選手が居並ぶ中、2位に割って入り驚かせると、200メートルでも2位。実力が本物であることを証明してみせた。ナイジェリア人の父と日本人の母を持ち、陸上を始めたのは高校2年生の時。競技歴わずか5年ながら大きな可能性を秘めた逸材が、悲願のリレー金メダル獲得へのキーマンとなる。(時事通信運動部 青木貴紀)
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「デーデー」の名前が瞬く間に日本中に知れ渡った。6月25日夜。今年の日本選手権で最大の注目レースとなった男子100メートル決勝。先行した多田修平(住友電工)の右隣で、後半にどんどん詰め寄る。9秒95の日本記録を持つ山県亮太(セイコー)を80メートル付近で抜き、優勝の多田に続いてゴールした。
9秒台カルテットしのぐ
自己記録を0秒01更新する10秒19。多田には0秒04及ばなかったが、山県、サニブラウン・ハキーム(タンブルウィードTC)、小池祐貴(住友電工)、桐生祥秀(日本生命)の「9秒台カルテット」を上回り、堂々の2位に食い込んだ。順位を確認すると、右拳を握って白い歯をのぞかせた。「5位以内という目標で、結果として2位に入れたのはすごくうれしい。実感が湧いていない」
2日後の200メートル決勝でも、自己ベストの20秒63をマークして小池に次ぐ2位と大健闘。「想定外というのが正直なところ」と驚きを隠さず、「自分は(2024年)パリ五輪で戦おうと目指していて、東京という意識はそこまでなかった。あまり緊張せずに楽しんでできた」と無欲が好結果につながったと自己分析。「正直、(有力選手の)みんなは五輪を懸けて走って動きに硬さがあったんだと思う。本来の実力通りだったらこの結果はなかった。運がよかったのかな」。謙虚に、そして冷静に振り返った。
高1までサッカー部
長野県松本市出身。小学2年から兄の影響もあってサッカーを始め、創造学園高(現松本国際高)1年秋まではサッカー部に所属していた。「技術があまり上手ではなかったので、レベルが上がっていくにつれて楽しめなくなった」。もともと走るのは得意で、高2の春に仲の良い友人に誘われたことをきっかけに陸上部に入った。「やってきたことが目に見える形でタイムや結果に表れるのが楽しい」と、すぐにのめり込んだ。
運命だったのかもしれない。陸上を始めた年はくしくも、前回リオデジャネイロ五輪が開催された2016年。男子400メートルリレー決勝は友達と一緒にスマートフォンの画面をかじりつくように見詰めて応援した。日本チーム(山県、飯塚翔太、桐生、ケンブリッジ飛鳥)は華麗なパスワークでバトンをつなぎ、銀メダルを獲得。友達と大興奮で感動した。「格好いいなと思った。中でもケンブリッジ選手は父親が海外の出身で自分と同じ。自分も、もしかしたら五輪に出られる可能性があるんじゃないかと勇気をもらいました」
競技開始からわずか1年後の17年には、全国高校総体の100メートルで5位に入った。陸上の名門、東海大へ進学。1992年バルセロナ五輪の男子400メートルで8位に入賞した実績を持つ高野進監督には、1年時の秋ごろから「ちゃんと勝負できる。9秒台で走れる」と太鼓判を押されていた。それでも本人は「本当に走れるのかな?」と、どこか半信半疑だったという。
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