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笹生優花、父と歩んだ栄光への道 全米女子オープンゴルフ日本勢初制覇

「家族にありがとう」

 女子ゴルフの海外メジャー大会で最高峰と位置付けられる全米女子オープンを、20歳に満たない日本選手が制覇した。笹生優花。2020年にデビューした日本ツアーでは早々に2連勝するなど、持ち前のパワフルなゴルフで活躍。プロになってわずか1年半余りで、世界的な快挙を成し遂げた。

 6月6日。米サンフランシスコのオリンピック・クラブ(パー71)で行われた最終ラウンドは、通算4アンダーで並んだ笹生と畑岡奈紗がプレーオフを争う展開に。日本選手同士というゴルフ史に残る対決を笹生が制し、76回の伝統を誇る大会で日本勢の初優勝を果たした。19歳11カ月17日での優勝は08年の朴仁妃(韓国)に並ぶ史上最年少だ。

 日本とフィリピンの両国籍を持つ。父の正和さん(63)が、ゴルフに興味を示した幼いまな娘を鍛え上げてきた。わが子の栄光を目の当たりにし、感慨に浸った。(時事通信ロサンゼルス特派員 安岡朋彦)

◇ ◇ ◇

 日本女子の海外メジャー大会制覇は、1977年に全米女子プロ選手権を制した樋口久子、2019年にAIG全英女子オープンで優勝した渋野日向子に続き3人目。笹生はコース上での優勝インタビューに流ちょうな英語で応じ、「まず家族にありがとうと言いたい。家族がいなければ、私は今、ここにはいない」と涙ながらに述べた。

「クリーマー」に胸踊らせた少女

 笹生は01年6月20日に母の故郷フィリピンで生まれ、4歳で正和さんの母国日本へと引っ越した。全米女子オープンの優勝記者会見では日本語、フィリピンで使われるタガログ語、英語と三つの言語で思いの丈を語ったが、正和さんによれば当時はまだタガログ語しか話せなかった。そのため友達ができなかったそうで、ゴルフの練習場に娘を連れていっていたという。

 程なく少女は、「ピンクのリボンの人」に憧れて、ゴルフで世界を目指すことを決意する。父の記憶では、10年の全米女子オープンをテレビで見たことがきっかけだった。おなじみのピンクのウエア、そして髪飾りのリボンを身に付けたポーラ・クリーマー(米国)が、ウイニングパットを沈めてパターを落とし、両手で顔を覆ったシーンが象徴的なこの大会。笹生もこの姿に心を動かされたのか、父に「ゴルフをやってみたい」と口にするようになったという。しかも「プロになりたい」と。

 正和さんは、こう述懐する。「バカなこと言っているんじゃないよって。プロになるには他のことをいっぱい諦めないといけないよって。これから楽しいことがいっぱいあるのに。今から選ばなくても、と。でも毎日毎日(ゴルフがやりたいと)泣いているから。しょうがないから」

 まだ幼かった娘の思いに全力で応えた。

「これは本当に好きなのかな」

 プロを目指すためには、日本よりもフィリピンの方が練習環境が優れていると正和さんは考えた。日本のゴルフ場で毎日練習を重ねるとなると、経済的な負担はとてつもなく大きい。一方で、正和さんがメンバーだったフィリピンのゴルフ場では、子どもは無料だった。試しにフィリピンで練習をさせたところ、娘はゴルフに没頭していった。

 「子どもって、飽きて帰りたいって言うもんだけど、腹が減ったも言わないし、帰るとも言わずにずっとやっていたから、これは本当に好きなのかなと」

 娘のゴルフのためにフィリピンへの移住を決意。全ては子どもの夢をかなえるためだった。

長いラフを物ともせず

 今回の全米女子オープンは長く粘りけのあるラフが選手たちを苦しめた。例えば渋野は、ラフに入れた後の対処法について「ボギーは覚悟。ダブルボギー以上を打たないようにどれだけ耐えるか」「フェアウエーに出せたらOK」などと語っていた。笹生も「ラフに入ったら、フェアウエーに出すことを第一に考えている」と口にしてはいたものの、結果は他の選手と明らかに違った。

 象徴的だったのは、67をマークした第2ラウンド。後半5番(パー4)の右ドッグレッグで、ティーショットを左のラフに入れた。残り約140ヤード。2打目で9番アイアンを振り抜くと、ボールは花道からグリーンに転がりピン手前約2メートルへ。ピンチどころか、チャンスをつくってバーディーを奪った。続く6番(パー4)も第1打が右のラフへ。ここでも約128ヤード先のピンを狙い、約4メートルにつけた。バーディーパットこそ外したものの、難なくパーをセーブした。笹生の力強いスイングは長いラフを物ともしなかった。

 畑岡と争ったプレーオフで決着をつけた3ホール目の9番(パー4)も、ラフからつくったチャンスだった。残り約110ヤードの左ラフから第2打をウエッジでピンそばにつけ、ウイニングパットを沈めた。このコースで勝つためには、きついラフに負けないショットがカギを握る―。最後の最後に、それを自ら示したかのようだった。

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