サッカーの明治安田J1リーグで、鳥栖の快進撃が顕著だ。代表戦による中断期間に入った6月2日までに18試合を消化し、9勝6分け3敗の勝ち点33で4位。若手の台頭もあり、同20日時点では消化試合が多い2位名古屋まで勝ち点4差で、来季のアジア・チャンピオンズリーグ(ACL)出場も狙える好位置につけている。
1997年に市民クラブとして誕生。2012年に初めてJ1に昇格して今季が10年目だ。この間、降格が一度もない。下部組織からの育成が実を結びつつあり、トップチームでは若手も活躍している。「育てて、勝つ」が浸透しているようだ。(時事通信福岡支社編集部 鎌野智樹)
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今季の鳥栖は山下敬大、林大地のFW陣が目立っている。それ以上に光るのは、失点の少なさだ。18試合でリーグ最少の8失点。J1リーグ記録に並ぶ開幕6試合連続無失点を記録した。ここまで複数ゴールを奪われた試合はない。試合の主導権を握ることが多く、安定した戦いにつながっている。
「アクション・サッカー」で主導権
金明輝監督は「自分たち主体のアクション・サッカー」を掲げる。後方からパスをつないで攻撃し、守備では連動したプレスにより高い位置でボールを奪い返すことを目指している。足元の技術が高いGK朴一圭や、DF陣による攻撃の組み立てが機能。攻撃の時間を確保すれば、必然的に守備に追われる場面は減り、ピンチも少なくなる。
ポジションの取り方は流動的だ。DFラインに入る17歳の中野伸哉が、攻撃時は左サイドの高い位置にポジションを移し、中盤の選手らとの連係で突破を試みる。右サイドでは、ライン際に張った飯野七聖によるドリブルなど手数をかけないで攻め切る。豊富な運動量で組み立てをサポートするボランチの松岡大起らを含め、選手個々の特長を生かしつつ、チームとして絶妙なバランスを保っている。
DFの安定感があるからこそ
守備では2トップがプレスのスイッチを入れ、全体が連動して高めにラインを設定。朴は「FWが前からコースを限定して、簡単に相手がやりたいプレーをさせていない。そこがうまく機能している時は、90分を通して良い守備ができている」と説明する。
前線の選手が思い切ってプレスにいくことができるのは、DF陣の安定感があるからこそ。2019年に横浜MのJ1優勝に貢献した朴は、ペナルティーエリアから飛び出し、守備ラインの後方にできる広大なスペースをカバーする。主将のエドゥアルド、黄錫鎬の両外国人DFは日本での経験も豊富で、屋台骨を支えている。
下部組織出身の若手が活躍
鳥栖は昨季も、終盤の13試合で1敗のみという成績を残した。ただし、主力の移籍が相次いだこともあり、今季の前評判は決して高くなかった。それを補ったのが、下部組織で育った若武者たちだ。
中野伸はU18所属ながらも定位置をつかみ、6月に20歳となったMF松岡は副主将を任されている。10番を背負うMF樋口雄太は下部組織で育ち、鹿屋体大を経て入団3年目。金監督は「若手を育てるところは、チームの一つのカラーになりつつある。若手を出しながら勝つ、そのサイクルを続けることが本当の育成型のクラブ」と語る。
その成果は、昨年の日本クラブユース(U18)選手権と高円宮杯全日本U15選手権制覇などではっきりと表れている。主眼はあくまでプロ選手の育成に向けつつも、アカデミーディレクターの佐藤真一さんは「選手たちの大きな財産。日本一になるのと、なっていないのでは、経験値は違う」と喜ぶ。
充実施設でサッカーに没頭
目を引くのが施設の充実。U18の選手は、練習グラウンドに隣接する寮で全員が寝食を共にする。体づくりのため、筋力トレーニングができる部屋もあり、練習後すぐに栄養士が管理する食事が提供される。佐藤さんは若い選手たちに関し「近年に比べ体が大きくなっている。(以前は)よそのクラブの選手はすごく体が大きいな、尻の回りが大きいなと思っていたが、今はうちの選手が周りからそう言われるようになった」。U15からの昇格を中心に、九州各県、遠くは北海道からも選手が集まり、サッカー漬けの毎日を送っている。
今季トップチーム昇格を果たした選手の言葉からも、充実度を感じられる。その一人、19歳のFW兒玉澪王斗はこのほどJ2相模原に期限付きで移籍。鳥栖について「常にサッカーに打ち込める。どこのチームよりもサッカーに没頭できる、一筋になれる環境で、全員にそういう気持ちがある」と振り返る。
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