その警察官からは、精神的にかなりきついであろう14日間のホテル隔離をする人たちの緊張をほぐそうという気遣いが感じられた。
午後11時。ようやくチェックイン。エレベーターホールで待っていたらフルーツやお菓子、ジュースにサンドウィッチが大量に詰まった「ウェルカムパック」を渡された。ありがたい。ソーシャルディスタンスを保つために、エレベーターは1台に1人ずつしか乗れない。エレベーターの中では床の真ん中に立ち、何も触らないよう指示される。
エレベーターを降りるところでも、兵士が待っていた。彼について部屋に入る(荷物はすでに運んでくれていた)。ツインルームだったので、1人だとかなり広く感じる。記録の写真をデジカメで撮りつつ、日本から持ってきたウェットティシュ型の除菌シートで部屋中を拭く。プロの清掃員が掃除してくれたのは分かっているのだが、このご時世、どうしても神経質になってしまう。深夜0時半、掃除終了。
そして14日間の「独房生活」が始まった。
食事は3食ともカートで運ばれて来て、ドアの外に置かれる。ノックを合図に中からドアを開け、外に置かれたものを持って入る「非接触」のスタイルだ。ごみや洗濯物も袋に入れてドアの横に置く。廊下に出ることはできない。
そんな隔離状態だから、最大の楽しみの一つが食事になってしまう。滞在2日目にして食事を運ぶカートの音が廊下から聞こえてくるだけでワクワクしてくる「パブロフの犬」状態になっていた。
朝食は基本的にシリアルにフルーツとヨーグルトといった「コンチネンタル風」だったので、たまにオムレツとソーセージという温かいメニューだと「大当たり」に感じた。昼と夜はステーキやパスタといったメインとサラダ、スナック菓子とドリンク。正直なところサラダは毎回同じドレッシングなので、途中から苦痛にも感じてきた。もしもこれからホテル隔離を体験する方がいたら、お好みのドレッシングを持っていくことを強くお勧めする。
最後に精神状態のバランスを保つために私が行ったことを紹介しよう。まず運動。フィットネス系のコントローラー付きテレビゲームを事前に購入して持って行った。2に会話。友人や家族など、毎日誰かと電話していた。
そして入浴だ。日本ではシャワーのみのアパートに住んでいたが、ホテルのバスルームは浴槽付きで、その浴槽も身長176センチの私が少し脚を曲げる程度で入れる大きさがあった。1日に数回、合計何時間も入っていた。
豪州の中でも私の実家があるクイーンズランド州は、市中感染者がほぼゼロの日々が半年以上続いていた。家族からは「旅行ができない以外はもうコロナ前の日常生活」と聞いてはいたが、14日間の隔離終了後「娑婆」に出ると、本当に誰もマスクをしていない。浦島太郎というか別世界に飛んだような不思議な気分だった。(柳沢大河)
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