私の14日間の隔離生活は、2020年11月16日に豪州はブリスベン空港で始まった。午後7時ごろに飛行機を降りると、ボーディングゲートを出たところで空港係員から、ホテルの名前が書かれた紙を渡された。どのホテルで強制隔離されるのかは、このときまで分からない。いったいどんなホテルかワクワクドキドキしていたところ、60代くらいの白人女性がそこらの人を捕まえてはこんなふうに言いふらしている声が聞こえた。
「ああ、サイアク~。このホテル、ものすご~く評判悪いのよね~」
オーストラリアの被隔離者(および経験者・予定者)が参加しているソーシャルメディア上のグループでは、ホテルの部屋から提供される食事にいたるまで事細かに情報交換がされているのだ。しかもそのホテル、到着したブリスベンからバスで1時間かかるゴールドコーストにある。
空港の建物内に入ってからはずっと約10メートルおきに立つ警察官または兵士に見張られている。税関を出た所でも兵士がお出迎え。
周囲の乗客としばし歓談で気を紛らわせる。実はコロナ禍で成田-ブリスベン便が飛ばなくなっていたので、ニュージーランドのオークランド空港経由で入国したのだが、そこでの待ち時間がなんと約12時間! オークランド空港の待合室でたっぷりと話し込んだ彼らとは、もう「戦友」同士のような間柄だ。とはいえ、周囲にはなんとも言えない緊張感が漂い続ける。
同じ便で入国した約120人は、3台のバスに分乗してホテルに向かう。14日間隔離という「戦場」にいよいよ向かうことになり、緊張はさらに高まる。バスに乗った瞬間、会話が一切なくなった。そう、あのおしゃべりな女性でさえも。
1時間ほどしてホテルに着いたが、私の乗っていたバスは3台の最後尾に位置していた。一度に多くの人をロビーに入れないため、降りるまで30分ほど待たされた。しかし苦痛ではなかった。ベテラン警察官が乗り込んできて「このクイーンズランド州は市中感染もずっとなくて安全です。みなさん、海外でよく頑張られました。長旅ご苦労様です」とねぎらってくれた。そのあとも彼の若手時代の武勇伝などを語ってくれて、さっきまでの緊張感がうそのように、場はすっかり和んでいた。
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