2020年8月末から9月中旬までニュージーランドで14日間、政府指定のホテルで隔離を体験した。オークランド空港に着陸後、兵士が飛行機に乗り込んできて「このホテルの乗客はみんなロトルアで隔離します」と機内アナウンスがあり、乗客はここで初めて自分がどこに隔離されるかを知った。
「は? ロトルア? ロトルアですって?」
機内がざわついたのも無理はない。ロトルアは温泉や湖で有名な観光地だが、オークランドから車で3時間かかる。とはいえ、オークランドで入国したにもかかわらず、隔離者専用チャーター機で南島のクライストチャーチに連れていかれて隔離される人もいるのだから、まだマシなほうと言えるかもれない。ちなみに隔離期間終了後は現地解散もできるが、オークランド空港への移動手段も政府が用意してくれる。
しかも温泉地! 「毎日温泉ざんまいで、隔離後はスベスベのお肌」を夢見たが、大きなスパ(温泉施設)の隣に建つその隔離ホテルでは、バスルームで出るのはいたって普通の水。「温泉ざんまい」は実際には夢で、むしろ窓を開けていると風向きによって硫黄の臭いが入ってきて部屋中充満するため注意が必要だった。
ホテル滞在費用は基本的には自己負担で、どこでも一律大人1人につき3100ニュージーランドドル(約23万円)、同室で人数追加の場合大人1人950ニュージーランドドル(約7万1000円)、子どもは3~17歳まで475ニュージーランドドル(約3万6000円)である。ホテルによって部屋の広さや景色、食事内容は異なるが、事前に選択することはできない。
部屋から外に出られるのはごみ出しのほか、3日目と12日目のPCR検査の時だけ。駐車場で少しの運動をすることはできたが、筆者はしなかったので、部屋から約10メートル離れた所にあるごみ箱までの1日3往復が唯一の運動だった。こんなにごみ箱を愛おしく感じることは今後ないだろう。
前向きに過ごせるよう、部屋にあるタオルでカニやエイを作って「タオルアート」と称して遊ぶ。ホテルから配られるクロスワードパズルや塗り絵もした。
トイレットペーパーとティッシュは必要に応じて部屋の外の廊下まで届けてくれる。あるときふと遊び心が芽生えて、掃除用にホテルが用意してくれたバケツやスポンジとともにアート作品にしてみた。その写真をインスタグラムにアップしたところ、コメントの中に「私もそのホテルで隔離中よ」といったメッセージをもらい、「近くに同じ経験をしている人がいる! 頑張って乗り越えよう」とこちらも元気をもらった。
ニュージーランドで隔離される人向けの情報交換的フェイスブックグループを見ると、お国柄なのか食事が入ってくる茶袋に絵を書いたり、切り絵を部屋に飾ったりと、手に入る材料で工夫をして身の回りを明るくし、前向きに乗り越えようとしている人が多かった。
14日間も部屋に缶詰めになれば、運動不足も気になる。ストレス解消も兼ねて、毎朝起きてすぐにアプリを使ってちょっとした体操や腕立て伏せや腹筋もした。隔離後変わり果てた姿にならないよう、美容にも要注意。
いろいろ不便もあり爆発しかけたこともあった。でも普段はあまり話さなくなったティーンエイジャーの娘と密室でべったりし、楽しい気分になれることを一緒に考えて…。 いい時間を過ごせたとも言えるだろう。(りんみゆき)
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