隔離生活で最もつらかったのはやはり行動規制だ。タイの隔離施設は非常に厳しく、初めの7日間は、外出はもちろん、ホテルの部屋から廊下に出ることも、部屋の窓を開けることも一切禁止。昨今、大気汚染が進んでいるバンコクとはいえ、外の空気が一切吸えないのには、さすがに参った。
ただ第1回のPCR検査で陰性と証明された8日目以降は1日45分、ホテルのプールサイドに出ることができた。1週間ぶりに外に出た時は、まさに「娑婆(しゃば)に出る」解放感を味わった。
外出規制に次いで大変だったのは食事。部屋にキッチンがついているが、自分で調理することは禁じられており、3食ともホテルから使い捨て容器に入った弁当が支給される。昼と夜は4種類の中から選べ、日本人駐在員が多いバンコクなだけに日本食のメニューも準備されていたもののワンパターンであり、かなりのストレスを感じた。
プールサイドで休憩中に雑談をした他の日本人家族は、レトルトのカレーやインスタントみそ汁を持ち込んだと話しており、その場で大金を払ってでも買い取りたい気持ちだった。
家族連れで隔離生活を送る上での大きな心配と苦労は、やはり子どもだ。遊び盛りの子どもにとって、一日中部屋で過ごす生活は大人以上につらいものがあるはず。私もどうなることやらと思いながら、隔離生活を始めた。
しかし、わが家の場合、妻の準備に助けられた。かさばらないおもちゃとして風船、絵の具、折り紙などはもちろん、ホテルのダイニングテーブルを台として使う前提で卓球ラケットとボールまで持ってくるほどの周到さ。毎日新しい遊びを小出しにすることで、娘は飽きることなく隔離生活を送ることができた。
日本では仕事が忙しくて子どもと遊ぶ時間がなかなか取れなかった私にとっても、朝から晩まで娘と一緒に過ごす日々は貴重なものだった。改めて、妻のアイデアに心底感心すると同時に、愛情が深まるきっかけとなった。
つらいながらもささやかな幸せもあった隔離生活だったが、もう一度やりたいかと聞かれたら、「真っ平御免」と即答する。ただ、聞くところによると、タイ政府はゴルフリゾートを指定隔離施設リストに加え、「ゴルフ隔離(ラウンドし放題)」を始めたらしく、そのような隔離生活であれば大歓迎だが…。
世界中でコロナが一日も早く収まり、人々が自由に移動・行動できるようになることを、バンコクの地で切に願っている。(東里泰晃)
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