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フィギュアスケート「カップル種目」に勢いと自信 ペアの三浦・木原組、アイスダンスの小松原夫妻

2022年北京五輪の出場枠獲得

 フィギュアスケートは2020~21年シーズンを終え、22年2月の北京冬季五輪を控える来季への準備が進んでいる。日本勢は羽生結弦(ANA)や紀平梨花(トヨタ自動車)らのシングル種目だけでなく、ペアとアイスダンスのカップル種目にも勢いがある。今年3月の世界選手権(ストックホルム)で、ペアの三浦璃来、木原龍一組(木下ク)が10位、アイスダンスの小松原美里、コレト・ティム組(倉敷ク)が19位に入り、それぞれ五輪枠を獲得。日本のペア、アイスダンスそのものの将来に、明るい展望と期待を抱かせている。(時事通信運動部 岩尾哲大)

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 ペアの三浦、木原組はカナダを拠点としている。新型コロナウイルスの影響もあって2019年12月の全日本選手権から実戦が遠ざかり、世界選手権が約1年3カ月ぶりの試合となった。世界選手権の直前、2人の口から次々と出てきたのは、不安ではなく自信にあふれた言葉だった。

 28歳の木原は「ショートプログラム(SP)もフリーも100%仕上がってきた。自分たちがやってきたことをしっかり出せれば、必ず結果は付いてくると思っているので、やってきたことを必ず出せるように頑張りたい」。19歳の三浦も「1年間試合がなかった間の成長を、皆さまに見てもらえるように頑張ります」と力強かった。

SPもフリーもベスト更新

 迎えた本番はSPで8位、フリー10位で、ともにこのペアのベストを出して合計10位。木原は14年ソチ五輪で高橋成美、18年平昌五輪では須崎海羽と組んで代表となったが、個人戦は繰り上げで出場した。自力で五輪枠をつかんだのは今回が初めてだ。スロージャンプなどでミスもあった中でも、好結果をたぐり寄せた。

 世界選手権から帰国後、隔離期間が明けて臨んだ4月の世界国別対抗戦(大阪市)で、世界選手権でのベストをSP、フリーともにさらに更新した。「今シーズン、本当に試合は少なかったが、2試合終えて自分たちがやってきたことは本当に正しかったんだなと思ったし、2人の自信につながった」と木原。この大会は、カナダからブルーノ・マルコット氏らコーチが同行できなかった。アクロバチックなリフトやスロージャンプがあるペアでは、安全面をケアする観点からも、その影響は小さくない。それでもベストを上積みできたのは、技術やコミュニケーションも含め、2人の練度が向上した証しでもある。

「ツイストって、こんなに浮くんだ」

 三浦と木原のペア結成が発表されたのは19年8月。三浦は前のパートナー、市橋翔哉とのペアを解散し、木原は肩の負傷もあり平昌五輪に出た須崎とのペアをその年の春に解消していた。結成のきっかけは、その年の7月ごろ。一緒に練習する機会があった。1回転のみのツイストリフトをしてみたところ、想像以上の高さが出た。木原は「最初から、今の高さに近い高さが出た。『ツイストってこんなに浮くんだ』と最初に投げた時に思ったのを覚えている」。三浦も同じ感想だった。「ツイストって、こんなに滞空時間が長いんだ」

 19~20年シーズンは主要大会ではNHK杯、全日本選手権、四大陸選手権に出場。世界選手権はコロナ禍で中止となった。2人はカナダで地道に鍛錬を続けた。活動や演技内容が表に出ることは少なかったが、日本スケート連盟内部では期待値が上がっていた。

強化担当者も認める成長度合い

 20年12月の全日本選手権でペアのエントリーは三浦、木原組以外におらず、移動や隔離期間の負担も考慮され出場免除に。この種目自体が実施されないことになった。単に1組のみだから免除したわけではなく、日本連盟内で、定期的に送られる演技の映像を確認していた。

 フィギュア強化副部長の小林芳子さんはその映像を見て「これだけのものができている。これはちょっと今までとは違うな」と、成長度合いに目を見張った。「組んで1年や1年半で五輪、世界選手権を迎える場合は『とにかくフリーに進めますように』と思っていたが、それとは全然違うレベルだった」。世界選手権まで拠点(カナダ)で練習を続けた方が、一層の成長を見せてくれると見込まれた。

スピンに手応えと自負

 4月の世界国別対抗戦で三浦も木原も振り返っているように、各技術要素でレベルを取れるようになり、全体的に底上げしているのは間違いない。とりわけ小林さんが成長を感じたのが、2人が息を合わせるサイド・バイ・サイドのスピン。「映像では見ていたが、世界選手権の公式練習で久しぶりに見て、スピードがすごかったし、ピタッと合っていた」

 本人たちにも、このスピンには手応えと自負があった。木原が、こう説明する。「最初のシーズンは全く回転ピッチが合わず、試合でマイナスの評価が多かった。だけど、カナダでコーチから『ツイストやリフトは才能かもしれないが、スピンは努力だ』と言われた。練習時間が余った時はスピンの練習をひたすら繰り返していた」。その成果は、少なかった実戦の中でもしっかりと発揮できた。

過去の体験を共有した「化学反応」

 「いろんな方に助けていただきながら、ようやくやってきたことが実を結び始めているので、最近はすごく楽しい。本当にいろんな方に評価していただけるので、本当につらく苦しい6、7年だったが、諦めずにやってきてよかった」。20~21年シーズンの競技会を終えて、木原が語った心境だ。シングルから正式にペアへ転向したのは13年。今、まさに充実期を迎えている―。そんな実感がある。

 結成2シーズン目で躍進した要因は何か。小林さんは「2人が経験者というのが、すごく強みになっている」と話す。木原が初めて組んだのは、既にカナダ出身のマービン・トランとのペアで12年世界選手権銅メダルの実績があった高橋。次のパートナー須崎はペア未経験だった。そして3人目の三浦。市橋と組んで世界ジュニア選手権に3度出場していた。

 小林さんは「経験者同士だと、上達の速度が速いと思っていた」。ツイストリフトやスロージャンプなど独特の技術があるペアで、片方がイロハのイから始める場合と、両者が経験者の場合とでは、スタートラインが全く違う。成功体験や失敗体験を互いに共有できる点も大きなメリットだ。小林さんはそれを「化学反応」と表現する。三浦と木原には「今まで組んでいたパートナーにも感謝しないとね」と伝えたという。

国内では難しいペアの強化

 世界選手権で10位という順位は、本来なら北京五輪で2組出場も見据えることができるほどの成果だ。しかし、現時点で北京五輪に日本から2組出る望みは限りなく薄い。昨年の全日本選手権で三浦、木原組の出場見送りがそのままペア実施の見送りとなったように、他に有力なペアがいないからだ。

 将来的な日本のペア種目発展を考えれば、課題は少なくない。指導者が国内にほとんどいないため、三浦、木原組のように海外のコーチに師事するしか方法がないのが現状だ。それにはコスト面などの負担も大きくなってくる。

 世界で戦えるペアが増えれば、国内の競争が激しくなる。場合によっては副産物として、組み替えによる「化学反応」が起こるケースも増えるかもしれない。そのためにはまず、裾野を広げることから始める必要がある。

下の世代へアピールを

 三浦と木原が北京五輪で活躍すれば、ペアの魅力をジュニアやノービスのスケーターにアピールできるはず。木原は「僕たちが少しでも結果を出せるようになれば、いろんな方に見ていただける機会が増え、下の世代の子たちがペアに挑戦してみたいなという思いがきっと出てくると思う」。三浦も「結果を残さないと皆さんに知ってもらえない。まずは私たちが頑張って結果を残していきたいと思う」と同調する。

 木原は21~22年の五輪シーズンで、前半の目標に「グランプリ・シリーズでの表彰台」を掲げている。ペア種目の将来も見据え、さらに羽ばたこうとしている。

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