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「文春砲」生みの親に聞いてみた 官邸圧力もスクープに忖度なし【政界Web】

2021年06月18日15時00分

「骨は拾ってやる」

 「文春砲」と聞けば、多くの政治家は身構えるだろう。週刊文春による「超ド級スクープ」が世間に与えるインパクトは大きく、記者クラブに所属する新聞・通信社やテレビ局の記者たちが歯ぎしりすることも珍しくない。文春はいかにしてスクープをものにしてきたのか。2012年4月から編集長を務め、18年からは編集局長として数々の文春砲を放ってきた新谷学(しんたに・まなぶ)氏に聞いた。(時事通信政治部 中山沙織)

◇安倍官邸と対峙(たいじ) 

《東京・紀尾井町の文芸春秋本社。予想に反して人懐っこい笑顔で出迎えてくれた新谷氏に、単刀直入に切り出した。文春はなぜこれほどスクープを連発できるのか?―その答えはシンプルだった》

 ―スクープの秘訣(ひけつ)は何ですか。

 手間もお金もかけているから、ということに尽きます。「本気で狙っている」ということです。

 ―でも、スキャンダル報道には訴訟リスクもありますよね。

 訴訟も覚悟でいくか、いかないかの話。「スクープ最優先」という姿勢を貫くかどうかです。編集長になって最初に「われわれ最大の武器はスクープ力だ。皆さんのミッションはいいネタを取ってくること。責任は俺が取るし、骨は拾うから前のめりでネタを取ってきてくれ」とあいさつしました。この姿勢は今に至るまで全く変わっていません。

《2015年、週刊文春はグラビアに江戸時代の春画を掲載。社内外に論争を巻き起こし、新谷氏は3カ月の「休養」を余儀なくされた。その後、16年1月に編集長に復帰すると、いきなりタレントのベッキーさんの不倫騒動をスクープ。その後も甘利明経済再生担当相の金銭授受問題、宮崎謙介衆院議員の不倫、舛添要一東京都知事の不適切な公用車利用問題(肩書はいずれも当時)を次々とすっぱ抜き、「文春砲」の砲声をとどろかせた》

 ―実際の取材態勢は。

 ものによりますが、大きな案件だとたくさん人をかけます。うちの記者は全部で30人くらいですが、例えば河井克行元法相と妻の案里元参院議員の公職選挙法違反事件では、直撃対象のウグイス嬢が12人いたので、記者も12人広島に投入しました。「朝8時、同時着手」と決めていたので、いろんな現場から引き抜いて、前日の晩に広島に送り込み、1泊させて直撃したのです。宿泊費や交通費で計50万円以上はかかりました。

 同時着手したのは(取材対象者が)口裏を合わせてしまうから。「文春が来たぞ」と。そうなると裏も勘も取れません。うろたえ方や「目が泳いだ」とか、それも重要な情報です。この時は、ウグイス嬢3人が二重に報酬をもらっていたことを認めて、それでゴーサイン。安倍1強政権当時の現職閣僚に公選法違反を突き付けるには、それくらい裏付けを取らないと怖かったですね。

 ―録音やカメラ、尾行は気づかれないものですか。

 経験を積んで場数を踏むと取材手法も含めて洗練されていくし、技術も上がっていきます。私だって狙われたら無理だと思います(笑)。総務省の高額接待問題では、録音した音声が聞き取りにくく、プロを探して30万円くらいかけて復元したら(会話が)しっかり残っていました。

 ◇カネで情報は買わない

《圧倒的なスクープ力の裏で、「週刊文春はカネで情報を買っている」と思っている人も少なくない。だが、新谷氏はこれをきっぱり否定する。金銭を支払わなくてもあらゆる情報が寄せられる仕組みとは何だろうか》

 ―取材の端緒は。

 「文春リークス」という情報提供サイトに送られてくる情報が大きいです。提供される情報がここ数年、質・量ともに飛躍的に上がってきました。

 ―情報はどのくらい寄せられるのですか。

 日々、100件以上は来ています。

 ―情報提供者には高額な金銭を支払っているのですか。

 基本スタンスとして、週刊文春はお金で情報は買いません。記事になった場合、「情報提供謝礼」の形でお金を支払うことはありますが、あくまで常識の範囲内で、高額にはなりません。実際、うちがスルーしたものが他誌に出ていることもあります。

 金銭を引き上げるためにデータを改ざんしたり、写真を合成したり、簡単にできる時代です。告発者の「動機」の部分はしっかり見極めないと怖い。

 ―では、なぜ文春に情報が集まるのでしょう。

 せんえつながらブランディングです。「スクープと言えば文春だ」と世の中に認知されれば、告発者が「どこに情報を送れば仕上げてくれるのか」と考えた時、「やっぱり文春かな」と思ってもらえる。

 以前、ある現職大臣のスクープの時も文春リークスに投書がきて、「はじめ警察に持ち込もうと思ったが、途中で握りつぶされると思ったので、文春さんに送ります」と書いてあった。非常にありがたい。そこまで信頼してもらえるなら頑張ろうと。

 ―ブランド化に成功した証しが文春砲だと。

 ただ、スクープのイメージが強くなりすぎると怖がられてしまうので、それは嫌ですね。「正義の味方」「人生をめちゃくちゃにする」「プライバシーを暴き立てる」などと、みんなが引いてしまうイメージは持たれたくない。「文春砲」という言葉も皆さんに使ってもらう分にはありがたいですが、自分たちで言ったことはありません。

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