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絶望なんてしない LGBT法案たなざらしも、変化の後押しに

政治家の果たすべき役割

 LGBTなど性的少数者に対する理解増進を図るための法案(LGBT法案)の国会提出が当面、見送られることになった。超党派の議員連盟による法案だったが、自民党の一部議員から反発の声が上がったためだ。2003年に性同一性障害であることを公表した上で東京都世田谷区議会議員選挙に立候補、当選し、以来、一貫して社会的少数者の環境改善に取り組んできた上川あや区議に考え方を聴いた。

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 人はだれしも社会的な存在で、環境のいかんによって、生きやすくも生きにくくもなる存在だと思います。それら社会環境の多くは多数派を前提につくられ、そこには必ず例外的な存在があるけれど、その取り扱い方は為政者によっても変わります。私が政治の世界に飛び込んだのは、自分自身、少数派にいて感じた生きづらさがあり、その再調整をしたいと考えたからです。

 トランスジェンダーだった私がずっと思っていたのは、社会制度はもちろん、社会の価値観も変えないと自分らしく生きるのは難しいということです。政治には、制度を変えたり、新たに作ったりするだけではなく、社会の価値観をも変えてゆける力がある。

 自分らしく生きていこうとする模索から、政治の果たす役割の大切さに気付きました。

 今回、超党派で作成された合意案は、性的指向や性自認が多様であることについての国民的理解を高めるため、政府に理解増進に向けた基本計画の策定を義務付け、企業や学校設置者にも理解促進や就労環境の整備、相談機会の確保などを求めるものです。本来あるべき差別禁止規定は盛り込まれなかったものの、目的や基本理念には、その性的指向や性自認にかかわらず、「等しく基本的人権を享受するかけがえのない個人として尊重される」存在であり、性的指向、性自認を理由とする「差別は許されない」との文言が最終的に加わりました。

 私が最初にこの合意案を見た時に思ったのは、法律案そのものにマイナスの要素は見当たらないということです。中にはこの法律を隠れみのに、同性婚阻止を狙っているのではないか、政治家が言う「理解」と当事者が求めている理解にはギャップがあるんじゃないか、といった声もありました。しかし素直に合意案を読む限りは、プラスの要素しか感じられなかった。

 もちろん、現実に起きている不利益、特に差別に対し、救済できる法律的根拠になるのかと言ったらそれは弱い。しかし、自民党の当初案にはなかった「等しく基本的人権を享受する」存在であり「差別は許されない」とした基本理念にのっとり義務規定や努力義務規定が動いていくならば、ベクトルは短いかもしれないけれども負ではなく正の方向に向かっていると。

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