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五輪強行、言えない理由と見えない結末

坂上康博教授に聞く

 新型コロナウイルスとの闘いが続き、東京五輪・パラリンピックは、カウントダウンに入っても開催の可否や観客受け入れなどをめぐって激震が続いている。それでも開催する理由や中止できない理由を語れない政府、東京都、大会組織委員会。「始まってしまえば」との目論見も透けるが、その通りの結末が待っているのか。坂上康博一橋大教授(スポーツ社会学)と考える。(時事通信社・若林哲治)

 ◇「森友問題」にも似ている

 ―国際オリンピック委員会(IOC)のバッハ会長らに屈辱的なことを言われても、日本側は中止をちらつかせることさえできず、国内の反対論や慎重論を説得する言葉も出てきません。

 坂上氏「そもそもIOCは五輪開催に関してものすごく超越的な権限を持っています。開催都市契約に、開催国の指導者は五輪憲章に忠誠を誓うという1項目があり、その他にも開催国の国家主権を侵害するぐらいの超法規的な権限がある。それが本来五輪が持つ特別な意義、平和運動という権威を人々が認めていることで成り立っている。IOCがボイコットなどを経験し、政治からの自立性を守る努力をしてきた結果なのですが、それに加え、今回は違う脈絡で日本の立場が弱くなっている」

 ―やはり昨年3月の判断が想像以上に重い。

 「バッハ会長に追随せざるを得ない状況ができてしまった。IOCと安倍(晋三)前首相のやりとりがすごく重い足かせになっているのではないか。日本側の意向で、延期を2年でなく1年にしたことで安倍前首相が受けた恩ですよね。中止なら入る保険が延期なら入らないとIOC側から念押しされ、そのリスクも引き受けてしまった」

 ―1年なら安倍前首相の花道にできるともいわれました。

 「それは政治的な理由であって、国民に説明がつくことじゃない。それをやってしまった。何が何でもやるしかない今の日本側の不自由さは、そこから来ているのでは」

 ◇日本国民が背負わされるもの

 ―今となっては「安倍さんがまいた種」とは言えない。片やIOCは、憲章にない「延期」を認めたんだぞと。さらに海外の観客も入れない、ワクチンも提供する。これでもか、これでもかと。

 「AP通信の記事に、五輪経済に詳しい大学教授の試算が載っていて、中止ならIOCは放送権収入で約35億~40億ドル(約3850億~4400億円)を失う可能性があり、保険で補えるのは4億~8億ドルにすぎないと。見込んだ収入が減るのであって損失ではないが、IOCも必死でしょう」

 ―だから日本が責任を持って開催しろと。そのリスクを国民が健康や生命を懸けて背負わされるわけです。

 「森友学園問題で『私や妻が関わっていたら国会議員を辞める』と言ってしまって、公文書を改ざんせざるを得なくなった。あの時も自殺者を生み出したけれども、今回も、五輪がなければ助かった命が助からなかったケースが出てこないとも限らない。後戻りできない形にしてみんなを巻き込んでしまう。その意味で似ている感じがします」

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