急ピッチで感覚を取り戻し、大会に備えようとしたせいか、稽古再開直後は負傷が続いた。体重無差別の大会では、さまざまな体格の選手との試合を想定するが、稽古相手が2人だけでは工夫するのにも限界があった。
全日本選手権の結果は、3回戦敗退。それでも胸の内を占めたのは、悔しさよりも、大会から離れていたからこそ再認識した喜びだった。「全日本選手権に出られるのは光栄なこと。本当にありがたかった」。素直に実感した。
全日本選手権は今年も、当初の4月開催予定が12月に延期された。加藤は、今年の大会には出場できないことが決まっている。年が明けてから始まった各都道府県の予選にエントリーできなかったからだ。出るだけで名誉と言われる全日本選手権で、12度の出場を誇る。最多記録は、かつて警視庁に所属し100キロ超級で世界選手権を制したこともある棟田康幸の15度。加藤は「15回を目指したい希望はある。体もきつくなっているが、トレーニングは継続している」。先行きが不透明な中でも懸命に前を向こうとしている。
活躍が士気向上に寄与
全日本柔道連盟の強化選手に指定されていれば、海外での大会につながり得る国内大会への出場が認められるが、そうではない選手たちは目標のやり場を定めるのも難しい状況だ。ある県警の柔道指導者は「若い選手は試合で負けて反省することもできない状態で、歯がゆい思いをしている。『こんなはずではなかった』とやめてしまうのではないかと心配している」と憂う。所属の隊や署が違えば、頻繁に顔を合わすこともできない。オンラインで積極的に意見を聞くなどして、精神面のケアにも努めている。
選手の活躍は、所属する警察内での士気や連帯感の向上にもつながる。加藤は全日本選手権を制した9年前を思い起こし、「人に会うたびに『おめでとうございます』と言ってもらったし、各部署にあいさつに行くと総立ちで拍手してもらった。こんなに応援されていたのかと思うぐらい」と懐かしむ。
雌伏の日々を糧に
そんな経験があるからこそ、後輩も活躍して自分と同じような思いをできるようになってほしいと願う。加藤は「この職場にいる以上、守るものは守らないといけない」と強調した上で、こう言う。「一人でも多く若い選手が強化選手に入って活躍して、五輪代表にも食い込んでほしいし、警察全体の柔道がレベルアップしてほしい。みんな『練習してぇ』ってうずいている。こういう状況だが、ぜひ頑張ってほしい」
コロナが収束して、稽古も大会参加もこれまでのようにできるようになった時、雌伏の日々を糧にできる―。そう信じている。
(2021年5月17日掲載)
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