新型コロナウイルスの感染が国内に広がり始めてから約1年。スポーツ界への影響は、今もなお消えない。その中でも、検査や観客制限などの対策を講じ、時には立ち止まりながらも、可能な限りの歩みを続けている。一方で、活動の制限を余儀なくされている選手も少なくない。典型は都道府県の警察に所属するアスリートたち。とりわけ柔道などは感染拡大防止のため、いまだに満足な練習を積めていない。足踏み状態のまま「耐える時」が続いている。(時事通信運動部 岩尾哲大)
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都道府県警の警察官は、体力と精神力の向上を目的に柔道や剣道、射撃などの訓練に取り組み、国内トップアスリートもいる。警察庁によると、昨年の緊急事態宣言が発令される前の4月1日から、原則としてスポーツ活動全般で部外の大会への参加を禁止としてきた。担当者は「われわれは治安維持を担う組織。感染してしまい、そこから組織に広がってしまうと治安維持に大きな支障が出る。広がらなくても、濃厚接触者だけでなく同じ職場の人は自宅待機となる」と説明する。
大会出場が認められる場合に基準となるのが、五輪などの大きな国際大会に関わるかどうかや、他者との接触の有無などだそうだ。接触競技ではない射撃は、マスクをしながら訓練は続けられたという。今年4月に行われたライフル射撃の東京五輪代表選考会では、都道府県警から吉岡大(京都府警)、佐々木千鶴(岩手県警)が出場権を獲得した。
難しい接触競技
柔道や剣道といった接触競技の対応は厳しい。五輪競技ではない剣道は、2020年度の全日本選手権、全日本女子選手権がコロナ禍で今年3月に延期。男女同時に開催された。男女とも、例年ならエントリーの多くを占める都道府県警所属の選手が不在。「警察(の選手)がいない全日本に、どこまで価値があるのか」との声もささやかれた。
柔道では大会出場が認められる選手でも、稽古を始める時期や人数に制限が設けられている。昨年12月の全日本選手権に、35歳の加藤博剛(千葉県警)が出場。加藤によると、大会の3カ月前から組み合う練習が許可された。ただし相手は、同じチーム内の2人のみに限られた。
稽古再開も、感覚戻らず
加藤は2012年、体重無差別で争う全日本選手権で当時90キロ級ながら見事に優勝。19年の大会で準優勝したことで、昨年の大会には推薦で出場権を得ていた。例年なら4月に行われる大会。新型コロナの感染拡大前からエントリーが決まっていたため、延期された大会にも出場が認められた側面もある。
昨春の緊急事態宣言発令後も、加藤は「収束した時に、ちゃんと柔道ができるような体づくりはしないといけない」との思いで、できる範囲でトレーニングは続けていた。しかし、全日本選手権に向けた稽古再開時は、柔道から約半年も遠ざかっている状況。加藤ほどの実力者でも「練習を再開しても感覚は戻らなかった。多分、駄目なんじゃないかと思った」と振り返る。「そんな中でも勝つのがアスリートと言われるが、これはちょっと違うだろうと」
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