4月に行われた菅義偉首相とバイデン大統領の日米首脳会談で、「台湾海峡の平和と安定」を求める立場を明記した共同声明が発表された。中国が世界規模で影響力を強める中、東シナ海と南シナ海の一方的な現状変更の試みに反対することや、日本の防衛力強化も盛り込まれた。河野克俊・前統合幕僚長は5月12日、「バイデンのアメリカ」をテーマに日本記者クラブでオンライン会見し、首脳会談が示す新たな日米同盟の在り方や、日本を取り巻く安全保障環境について語った。
(2021年5月20日)
中国の海洋線引き論は異質
まず、安全保障環境について私の認識を申し上げたい。今回の日米首脳会談で台湾海峡が明記された。日米同盟の一つの脅威目標が、中国という理解でいいと思う。中国は1949年に建国された。当時の人民解放軍はイコール陸軍。海軍は沿岸海域を航行する程度だった。国共内戦で蒋介石の国民党が台湾に逃れた後、台湾を落とせなかったのは、海軍力、空軍力の不足が大きな要因だったということだ。
毛沢東が亡くなり、鄧小平の時代に改革開放を迎えた1980年代後半、海軍のトップが、大海原を航行できるブルーウオーターネイビーに成長させるコンセプトを打ち出した。これは鄧小平の改革開放と連動している。経済発展には並行して海洋進出が伴うのが歴史の必然だと思う。振り返れば、ポルトガルとスペイン、イギリスとオランダがそれに続いた。最近ではアメリカ、ある意味日本もそう。経済発展を遂げるためには海洋における権益や、海洋領土は不可欠になってくる。そしてやはりシーレーン、貿易で発展するためのシーレーン確保。従って、最近の中国の海洋進出というのは、私はある意味理解できる。
ここで問題なのは、「クアッド」つまり、アメリカ、オーストラリア、インド、日本という海洋国家と中国の海洋に対する考え方、価値観が異なっていること。それが根本の対立要因だ。海洋は基本的に自由というのが国際法の考え方。領空、領土は絶対的に不可侵だが、領海は無害通航、通るだけならOK、軍艦でさえOKという考え方だ。海洋は自由に使ってお互い経済発展しようというのが海洋をめぐる価値観。ところが中国は、(海洋に線引きする)第1列島線、第2列島線、そして今や第3列島線、これはハワイを通って太平洋を二分し、西側は中国、東側はアメリカという太平洋二分論まで出てきている。
アメリカを含む多くの国が、中国は世界貿易機関(WTO)に入って経済発展すれば、同じ価値観の国になると期待して海洋進出を見守っていた。しかし、ここに至って明らかに違う、異質の国だと。ペンス副大統領(当時)の2018年10月の演説、ポンぺオ国務長官(同)が20年にニクソン大統領図書館で行った演説で、アメリカは完全に今までの中国に対する認識を変えたと宣言したに等しいとみなければならない。この流れの中でバイデン大統領が就任し、現実の動きはその線に沿っている。
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