レッドブル・ホンダ149ポイント、メルセデス148ポイント。わずか1ポイントながら、ホンダのF1活動最終年のタイトル奪取に向けて、大きな意味を持つ1ポイントになった。5月23日に決勝が行われたF1世界選手権シリーズ第5戦、モナコ・グランプリ(GP)。レッドブル・ホンダ勢はマックス・フェルスタッペン(オランダ)がモナコ初優勝を遂げ、セルヒオ・ペレス(メキシコ)は4位。ライバルのメルセデス勢はルイス・ハミルトン(英国)が7位にとどまり、バルテリ・ボッタス(フィンランド)はリタイア。両陣営が明暗をくっきりと分けた結果、レッドブル・ホンダがついに最強メルセデスをかわし、コンストラクターズ(製造者)部門で今季初めてポイントリーダーに立った。(時事通信運動部 佐々木和則)
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1周3.337キロの風光明媚(めいび)なモンテカルロ市街地コースを舞台に繰り広げられる世界三大自動車レースの一つ、モナコGP。昨年は新型コロナウイルス感染拡大の影響で中止となり、今年は2年ぶりの開催だった。「モナコの1勝は3勝に値する」と言われる伝統レース。レッドブルのクリスチャン・ホーナー代表は、最大限の賛辞を示すコメントを出した。
「チームにとって驚くべき日になった。マックス(フェルスタッペン)はチャンスが訪れた時、両手でそれをつかみ、最初から最後まで完璧なドライブをした。ホンダはモナコでは1992年以来の優勝で、チャンピオンシップをリードするのは91年以来。ここに到達するためのホンダの努力をたたえないといけない。彼らは素晴らしい仕事をしており、きょうのレースでトップ6に3台のホンダ勢がいることは素晴らしい成果だ。チャンピオンシップの道のりは長いが、わたしたちは常に勝利を楽しみたい。メルセデスとの争いは僅差だが、われわれにとって大きなステップになった」
レッドブルは2010~13年にかけて、セバスチャン・フェテル(ドイツ、現アストンマーティン)を擁して製造者、ドライバーズの両タイトルを4年連続で制した強豪(当時はレッドブル・ルノー)。エンジンがハイブリッド形式のパワーユニット(PU)に移行した14年以降はメルセデスの後塵(こうじん)を拝しているが、ついにメルセデスの連覇を7で止め、8年ぶりのタイトルを狙えるマシン、エンジン、ドライバー2人がそろったと言っていいだろう。ホンダが関わった製造者部門ランキングトップは、マクラーレ・ホンダ時代の1991年以来、30年ぶりとなった。
最終年は「レッドブル・レーシング・ホンダ」
モナコGPの表彰式は、アルベール2世公を含むモナコ公国の王室メンバーが出席する格式高いセレモニー。今年の表彰式で製造者部門の優勝トロフィーを受け取る役は、レッドブルのチーフ・テクニカル・オフィサーを務めるエイドリアン・ニューウェイ氏だった。「空力の鬼才」の異名を持つF1界屈指のマシンデザイナー。レッドブルのマシンを造り上げ、メルセデスを「抜いた」栄誉の瞬間を表彰式でかみしめ、優勝のフェルスタッペン、2位カルロス・サインツ(スペイン、フェラーリ)、3位ランド・ノリス(英国、マクラーレン・メルセデス)の若い3人とシャンパンファイトに興じた。
レッドブルはホンダからPUの供給を受けて3年目。過去2年のエントリー名は「アストンマーティン・レッドブル・レーシング」だった。アストンマーティンがF1参戦とともにタイトルスポンサーを外れ、新たなタイトルスポンサーが見つからなかったこともあり、21年は「レッドブル・レーシング・ホンダ」の名称でエントリー。マシンもリアウイングの一番目立つところに「HONDA」の大きなロゴが入る。モナコの青空に「ウイニングコンストラクター、レッドブル・レーシング・ホンダ」のアナウンスが誇らしげに響き渡った。
フェルスタッペン、自身初のリーダーに
エンジンを中心とするPU供給元としてのF1活動を今季限りで終えるホンダ。ホンダ・エンジンは過去、モナコGPで6勝を挙げていたが、今回の勝利は92年にマクラーレン・ホンダのアイルトン・セナ(ブラジル)が勝って以来、29年ぶりの通算7勝目となった。ホンダ陣営は最後になるかもしれないモナコGPで久々の勝利を狙っていたが、ポールポジション(PP)はシャルル・ルクレール(モナコ、フェラーリ)。ところが、ルクレールはマシントラブルのため決勝の出走を断念した。最前列のマシンは2番グリッドのフェルスタッペンだけとなり、実質のトップグリッドから落ち着いてスタートを決めるとレースをリードし、「コントロールできた」。抜きどころが少ない市街地コースでトップを守り切り、78周のレースに完勝した。予選のポジションが大きなウエートを占めるモナコで、他力ながらトップグリッドが舞い込んだフェルスタッペン。そのチャンスを逃さず、栄光のモナコウイナーに名を連ねた。
ドライバーズ部門でもフェルスタッペンが105ポイントに伸ばし、101ポイントのハミルトンを逆転。23歳のフェルスタッペンは歴代最年少の17歳でF1デビューを果たしており、参戦7年目。ついに自身初のチャンピオンシップリーダーになった。初の年間王者を目指すフェルスタッペンは「とてもハッピーだ。チームとして、ホンダと一緒に勝利をつかめたことに満足している。モナコでは表彰台にも上がったことはなかったので、なおさらだ」と喜び、こう続けた。「われわれはチャンピオンシップをリードしているが、シーズンの最後にリードしていることが最も重要だ」
コロナ禍で中止や延期が相次いだ昨季は2勝どまり。マシンもホンダのPUもメルセデスに対抗することはできず、史上最年少の年間王者にはなれなかった。だが、今季は5戦目にして昨季に並ぶ2勝目。ライバルのハミルトンは年間王者7度で並ぶミヒャエル・シューマッハー(ドイツ)を抜く8度目の王座を目指しているが、近い将来のチャンピオン候補と目されてきたフェルスタッペンが立ちはだかる構図に。今季のF1は史上最多の23戦。両雄の熱いマッチレースはまだ、始まったばかりだ。
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