政府はワクチン供給量を増やし、経済活動再開のために早く接種を進めたいと潤沢な予算を付けるが、今のやり方では上手(うま)くいかないだろう。
ところが、「厚労省は本気で支援する気はなく、現場に丸投げ(同省関係者)」だ。例えば、予診表は医療機関で利用する定期接種用の問診票を転用している。この中には、「最近1カ月以内に熱が出たり、病気にかかったりしましたか」「現在、何らかの病気にかかっていて、治療(投薬など)を受けていますか」といった項目が並び、一つでも「はい」にチェックがあると、そのままではワクチンを接種できない。「高血圧」など大部分はワクチン接種に問題ないのだが、医師が詳細を聞き取らねばならないので、時間がかかってしまう。接種会場にいる数名の医師に問診を依頼することになるが、各地で実施した予行演習では、ここで「渋滞」した。そうなると1日に接種できる人数が減ってしまうため、全国市長会は予診表の訂正を求めたが、厚労省は「既に公開しており難しい」と回答し、「予診表の確認のポイント」を配付してお茶を濁した。集団接種が始まれば、混乱は避けられない。
医師の手配も問題だ。地方都市はもちろん、医師不足が深刻な首都圏でも「目途は全く立っていない(神奈川県のある首長)」。医師にやる気がないわけではない。ある大学病院の教授は「地元の市役所から医師派遣を依頼されたので、大学と相談したところ、『市役所から依頼書を送ってほしい。兼業なので審査が必要』と言われた」という。この教授は教室員を交代で派遣するつもりだったが、「既にアルバイトをしている医局員が多く、兼業規制の制限時間を超えてしまうので諦めた」という。大学病院を所管する文部科学大臣が、「緊急事態のため、平時の規制は緩和するように」と大学に協力を要請すれば済む話だが、そのような動きはない。
この状況はワクチン接種が進む英国とは対照的だ。コロナ流行を国難と捉え、さまざまな規制を緩和した。例えば、ワクチン接種では、医療機関以外に薬局やスポーツセンター、教会、オフィスなどを接種会場とし、コメディカル、医学生、看護学生、軍人なども「ボランティア」で接種できるようにした。最近になって、歯科医による接種の検討が始まった日本とは全く違う。
コロナは緊急事態だ。世界は危機感を持って、平時とは異なる対応をしている。ところが、日本は危機感が希薄だ。コロナの流行が本格化する今冬までに、集団免疫を獲得できるレベルまでワクチンを打とうという強い意思が感じられない。4月19日には、自民党の下村博文政調会長が「65歳以上だけに限定しても今年いっぱいか、場合によっては来年までかかるのではないか」と発言しているくらいだ。当事者意識がないのだ。これが、日本がコロナ対策で「一人負け」している真の理由だろう。
「勝負の2週間」「緊急事態宣言」などの抽象的な呼び掛けに思考停止してはいけない。どうすればコロナを克服できるか。科学的で、個別具体的な議論が必要だ。
(時事通信社「厚生福祉」2021年5月21日号より)
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