どうすべきだったかは明白だ。田村厚労大臣が政治判断し、特例承認すべきだった。特例承認とは、緊急性があり、代替手段がなく、かつ海外で販売されている医薬品について、特別に承認する制度だ。厚労省は昨年5月、薬機法の政令改正を行い、コロナ感染症に効能・効果のある医薬品を特例承認の対象とし、レムデシビルを承認している。
各国は、類似の制度を利用してワクチンを承認している。ファイザーは米国内と国際共同の二つの第3相試験を実施したが、後者に欧州から参加したのは独だけだ。英仏伊加は、自国が参加していない臨床試験の結果を基に使用を認めている。
自国内にアストラゼネカというコロナワクチンを製造するメーカーが存在することも大きいが、第3相臨床試験に参加していない英国が率先してワクチンを接種し、コロナを克服しつつあることは注目に値する。
なぜ、日本は国内での治験に拘ったのだろう。もちろん、「日本はワクチンの安全性への関心が高い」「日本人への安全性は担保されていない」「日本で治験をしないと、日本国内の審査体制が空洞化する」など、厚労省にも言い分はあるだろう。また、政治判断でワクチンを承認して重大な副反応が出た場合、田村厚労大臣が責任を負うことになる。ただ、国民視点に立てば、どう判断すべきだったかは自明だ。日本と海外の違いは、コロナ流行を、どの程度の緊急事態と考えているかだ。日本は平時の対応を貫き、海外は非常時として対応した。これが、日本がワクチン接種で出遅れた理由だ。
ワクチンが承認されれば、十分に確保し、迅速に接種しなければならない。日本は昨年の段階からファイザー、モデルナ、アストラゼネカなど3社と3億1400万回分(1億5700万人分)の契約を結んでいたが、ワクチンの承認が遅れたため、輸入に手間取った。
さらに、1億2000万回分を輸入する予定だったアストラゼネカ製ワクチンに血栓症の副反応が表れ、ワクチンの副反応に敏感な日本では受け入れられないかもしれず、ワクチンが不足する可能性が出てきた。
今年4月17日、菅義偉首相は訪米中に米ファイザー社のアルバート・ブーラ最高経営責任者(CEO)と電話会談し、これまでに契約している1億4400万回分(7200万人分)とは別に追加供給を要請した。どうやら5000万回分が供給されるらしく、翌18日には河野太郎規制改革担当相が、16歳以上の全員分を9月までに調達できることとなったと明かした。日本のメディアは、菅首相の功績として好意的に報じた。
実は、これについては別の見方も可能だ。知人の製薬企業社員は「米国で余った分を譲ってもらったのだろう」という。どういうことだろうか。
コロナワクチンの開発競争は熾烈(しれつ)だ。当初、英アストラゼネカがリードしていた。4月2日現在、世界各国の契約数はアストラゼネカ24.2億回、ファイザー15.6億回、米ジョンソン・エンド・ジョンソン10.3億回、米モデルナ8.0億回、仏サノフィ7.3億回、中国シノバック4.8億回だ。
ただ、ここにきてファイザーが独走しつつある。前述のようにアストラゼネカ、さらにジョンソン・エンド・ジョンソンのワクチンで血栓症が問題となったからだ。4月13日に米食品医薬品局(FDA)は、ジョンソン・エンド・ジョンソンのワクチンの一時的な使用停止を勧告、4月14日にデンマーク政府は、EU諸国で初めて、血栓症を理由にアストラゼネカ製ワクチンの使用を完全に中止した。
米国やデンマーク政府がこのような対応を取ることができたのは、「ファイザーからワクチンを確保できる目途が立った(前出の製薬企業社員)」からだ。ファイザーは、21年中に生産量を従来の13億回分から20億回超に増やし、米国向けの2億回分の供給を7月から5月に前倒しすると発表した。4月18日から全成人が接種対象となり、早晩、接種は完了する。ファイザーの21年の売上は150億ドルと予想されている。
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