4月29日に行われた陸上の織田幹雄記念国際女子100メートル障害決勝で、寺田明日香(31)=ジャパンクリエイト=が自身の日本記録を0秒01更新する12秒96で優勝した。エディオンスタジアム広島の観客席では、6歳のまな娘、果緒(かお)ちゃんと夫の佐藤峻一さんが見守った。家族の前で刻んだ新記録。レース後に果緒ちゃんの夢をかなえる瞬間が訪れ、ママさんハードラーとしての喜びがこみ上げた。(時事通信運動部 青木貴紀)
◇ ◇ ◇
ゴール直後の速報タイムは自身が持っていた日本記録と同じ12秒97。「あー!もうちょっとだったのに」。天を仰ぎ、苦笑いを浮かべて悔しがった直後、公式記録の12秒96が表示されると飛び跳ねて、「うれしいサプライズ」と頭の上で両手をたたいて喜んだ。
会場が拍手に包まれる中、寺田は両手を目の上に持ってきて観客席を探し始めた。果緒ちゃんを見つけるとタイマーを指さし、「おいで!」と手招き。スタンドから降りてきた果緒ちゃんは母親の快走を自分のことのように喜び、うれしくて泣いていた。寺田に抱きかかえられて涙をぬぐい、2人でピースサインをつくって記念撮影。親子の愛があふれるほほえましい光景だった。
「何で泣いているのか聞いた時に『うれしくて』って言われて、私もウルッときてしまいました。うれしくて泣くということが彼女の中にあって、さらにそれが私が走って記録を出したことに対してというのが、母親として彼女の大きな成長だと思う。すごくうれしかった」
果緒ちゃんが夢見た記念撮影
日本新記録が表示されたタイマーの前でママと一緒に写真に納まる。これは果緒ちゃんが夢見た瞬間だった。寺田が2019年9月に日本人で初めて13秒の壁を破る12秒97の日本記録を出した時、観客席にいたもののトラックに降りて一緒に記念撮影することができなかった。母親が一人で撮影される姿を見て、「ずるい」とうらやましがっていたという。
さらに、ドーハで応援した19年秋の世界選手権では、女子100メートル障害を制した2児の母であるニア・アリ(米国)が、子供と一緒に写真に納まり、ウイニングランする姿を目にした。「私もこれやりたい」。果緒ちゃんはおねだりしていた。
寺田もそのことがずっと頭の中にあった。新型コロナウイルスの影響で無観客開催の大会も多く、チャンスは限られる。「私が勝ってタイムを出し、かつ彼女がいる時はやってあげたいなと思っていた。それをかなえてあげられてよかった」。ほっとした母親の顔をのぞかせた。
新着
会員限定