欧州サッカーの主要12クラブが創設で合意した新大会「欧州スーパーリーグ(SL)」が、発表からわずか数日で事実上の崩壊を迎えた。レアル・マドリード(スペイン)やリバプール(イングランド)、ユベントス(イタリア)など各国を代表する強豪が名を連ねたが、内外から猛反発を受けて次々と撤退。計画は頓挫した。(時事通信ロンドン特派員 長谷部良太)
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SLは入れ替えのない15の「創設チーム」を含む20チームで争われ、1次リーグと決勝トーナメントを8月から翌年5月の平日に実施する予定だった。ビッグマッチが増え、現行の欧州チャンピオンズリーグ(CL)を上回る収益が見込まれた。
レアルの会長でSL会長にも就任したペレス氏は地元スペインのテレビ番組で、「サッカー界を救うため。欧州CLが魅力的なのは準々決勝からで、(それまでは)小さなチームとの試合を強いられている」と現状への不満を口にした。
SL創設を後押ししたのが、新型コロナウイルスの影響による財政難だった。ペレス氏によると、レアルは昨季を含めて4億ユーロ(約520億円)の減収見通し。マンチェスター・ユナイテッド(イングランド)も昨季は7000万ポンド(約105億円)の減収になるなど、どこも経営悪化に苦しんでいる。
欧州サッカー連盟(UEFA)が主催する欧州CLの賞金総額は約20億ユーロ(約2600億円)だが、SLが初年度にクラブに支払う金額は桁違いの100億ユーロ(約1兆3000億円)。米金融大手JPモルガンによる莫大(ばくだい)な支援や増額が見込まれる放映権料は、経営に頭を悩ませるオーナー陣にとって最大の魅力だった。
しかし、最大の過ちはサッカー界の合意がないまま見切り発車したことにある。SL創設の発表後、UEFAだけでなく国際サッカー連盟(FIFA)や各国の協会、リーグが次々と反対の意思を表明した。FIFAのインファンティノ会長は、「SLは閉鎖的で既存の枠組みから逸脱しており、承認しない」。英国では政府が介入し、創設を阻止する動きまで見せた。
昨季欧州王者のバイエルン・ミュンヘン(ドイツ)は当初から不参加を表明。創設チームのマンチェスター・シティー(イングランド)やリバプールでさえ、監督や選手から反対の声が上がった。マンチェスターCのグアルディオラ監督は「成功が保証され、負けが意味をなさないのならスポーツではない」と言い、降格がない方式に疑問を投げ掛けた。リバプールの副キャプテンを務めるミルナーは「実現しないことを願う」。オーナーの意向に反するのは自身の立場を危うくしかねないが、彼らは勇気を持って発言した。
各国リーグ戦の価値下げるSL
SLがこれほどまでに強い反発を受けた理由は、各国リーグ戦の価値を大きく下げ、サッカーの伝統から逸脱していたからに他ならない。
現在は欧州各国のリーグ戦で上位に入れば、欧州CL出場権を手にできる。つまり、どのチームにも欧州の頂点をつかむチャンスがある。番狂わせはサッカーだけでなく、スポーツが持つ醍醐味(だいごみ)の一つ。最近では2019~20年シーズンの欧州CL準々決勝でアヤックス(オランダ)が優勝候補のユベントスを破り、母国を沸かせた。
しかし、SLは創設15チームを固定。残りの招待枠は5だけで、その選考基準も明らかにされていなかった。いずれにせよ多くのチームにとっては欧州の大舞台とのつながりがほぼ絶たれることになり、リーグ戦はタイトルを争うためだけの存在になる。SLに出場するチームが、国内試合で主力を温存するケースが増えることも容易に想像できた。
ペレス会長は「サッカー界のため」と熱弁したが、SLに出場しないチームにとって恩恵があるのかは明確にしなかった。こうした疑念も大きな反発の原因になり、それが重圧となってSL創設の発表から数日で大半のクラブが離脱する事態となった。
イングランド勢の撤退から一夜明けた4月21日、英タイムズ紙は「1世紀以上の伝統を覆すはずだった革命は、72時間以内に崩壊した」と社説で記した。その文面には、「伝統は守られた」という安堵(あんど)感がにじんだ。
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