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戦後保守政治の裏側14 なかにし礼氏の“しなやかな反骨” 戦争の記憶を刻み込む執念

継承すべき「悪い芽」との闘い

 なかにし氏との最後の電話となった、去年の10月には、すでに菅義偉政権が発足していた。菅首相が「安倍継承」をアピールしていたことを強く批判していた。

 「財務省が森友学園の公文書を改ざんしたなんて、安倍さんに忖度してやったことは明白じゃないですか。再び、政府の嘘がまかり通る時代になってしまった。それで安倍1強、安倍継承だなんて、戦前に逆戻りですよ」

 この「1強」を、野中氏も警戒した「1色」と置き換えれば、安倍政権には「悪い芽」が潜んでいたということだ。

 「悪い芽」とは何か。国民に事実を伝えないこと。虚勢を張って議論をごまかすこと。失敗を認めず、学ばず、同じ失敗を繰り返すこと。そして、これらのことを黙認することだ。

 この芽を摘むにはどうすればよいか。そう尋ねると、

 「政府に怯えず、国の在り方を語れば、この国を多少なりともいい方向にもっていける。私にとって書くことが生きること」

 と話し、実際に、最後に倒れる直前まで、小説の連載にも意欲を燃やしていた。戦争の記憶を歴史に刻み込もうとする闘志と執念は、我々の世代も継承していかねばなるまい。【時事通信社「地方行政」2021年2月25日号より】

 菊池正史(きくち・まさし)日本テレビ経済部長。1968年生まれ。慶應義塾大大学院修了後、93年日本テレビ入社、 政治部に配属。旧社会党、自民党などを担当し、2005年から総理官邸クラブキャップ。11年から報道番組プロデューサー等を経て現在は経済部長。著書に「官房長官を見れば政権の実力がわかる」(PHP研究所)、「安倍晋三『保守』の 正体」(文藝春秋)などがある。

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