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柔道家の出口クリスタ、見据える金メダル 「信州代表」がカナダから東京五輪目指す

女子57キロ級の世界ランキング1位

 特別な思いを持って、生まれ育った日本で開催される五輪を見据えている。東京五輪柔道女子57キロ級のカナダ代表を目指す出口クリスタ(日本生命)。25歳の柔道家はカナダ出身の父と日本人の母を持ち、2017年からカナダ選手として国際大会に出場してきた。19年の世界選手権(東京)を制し、現在の世界ランキングは1位。同国の女子で初となる柔道の五輪金メダルを目指し、ひたむきに突き進む。(時事通信運動部 岩尾哲大)

◇ ◇ ◇

 長野県出身。父が格闘技好きなこともあって、3歳で柔道を始めた。長野・松商学園高では1年生ながら全国高校総体の女子52キロ級で優勝。3年時には全日本ジュニア選手権の57キロ級を制し、シニアの国際大会、グランドスラム(GS)東京大会で3位に入るなど、日本代表としての将来を嘱望された。

 ただ、その後は伸び悩み、国際大会のメンバーからも遠ざかった。全日本の合宿では稽古に熱が入っていなかったこともあり、「ただただ自分が未熟だった」と振り返る。2016年リオデジャネイロ五輪が終わり、長期的に見れば東京五輪代表レースのスタートとなる同年11月の講道館杯全日本体重別選手権で2回戦敗退。これが、カナダ代表を選ぶ大きなきっかけになったという。

「生き返った気がした」

 中学生の時から、カナダ代表の道を指導者に提案されたことはあった。当然、転向はそう簡単な決断ではなく、デメリットもある。国際大会には、日本代表として出た最後の大会から3年も出られない。ただし出口の場合、カナダ代表として進む決断をした頃には既に、2年以上国際大会から離れていた。「あと1年弱、我慢して練習を積めばいいと、希望があった。死んだ魚のようになっていたけど、ちょっと生き返った気がした」

 しかし、新たな船出は順風満帆とはいかなかった。カナダ代表の初陣となった17年10月のGSアブダビ大会、続く12月のGS東京大会でともに初戦敗退。柔道創始国の代表経験者に対するカナダチームの期待をひしひしと感じていた中で結果を残せず、「メンタル的にはズタボロだった」と振り返る。

 本人が口にしたように、心がズタズタに、ボロボロに打ち砕かれた状態になっても、そこから本領を発揮していった。18年2月の欧州オープンで、格付けこそ高くない国際大会ながらも優勝を遂げると、翌週は日本勢も含め強豪が集うGSパリ大会を制覇。9月の世界選手権では銅メダルを獲得した。そして19年夏、世界女王の座をつかみ取った。

カナダの環境に合う

 潜在能力が開花したのは、カナダ代表を選んだことがきっかけだと考えている。「カナダはそんなに人員もいないので、一丸となってやる感じ。みんな友達みたいな。意見もがんがん言えるし、壁を感じない」。そんな環境が合った。競争が激しい日本では、「負けたら次はいつ代表に呼ばれるか」と考えながら試合に臨んでいた。転向当初に負けが続いた後、欧州オープンから再出発させてくれたのも、配慮があってのことだと受け止めている。

 18年の世界選手権で銅メダルを獲得した後には、「国旗は日本ではないが、出口クリスタを一人の柔道家として、これからも応援してくれたら」と話した。カナダ代表として活躍し始めると、心ないことをSNSに書き込まれることもあった。もちろん傷つき、ショックも受けた。

故郷のエールを力に

 でも最近は、もう意に介していない。「アンチが気にならないぐらい応援してくれる人がいるので」。特に地元長野県の人々は、歩いていても「信州代表」と言って激励してくれる。「生の声も、人づてに聞いた応援の声もうれしい」。生まれ故郷からのエールは何よりの力になっている。

 新型コロナウイルスの影響で五輪が1年延期となっても、「特にモチベーションに変化はなかった」。技や組み手のバリエーションを増やすなど研さんを重ね、さらに成長した実感がある。1年1カ月ぶりの国際大会となった今年3月のGSトビリシ大会(ジョージア)で3位に入り、4月のGSアンタルヤ大会(トルコ)は優勝。手応えは深まっている。

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