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「99.9%この夏に引退するつもりだった」 新たな輝き放つ長谷部誠、「集大成」への挑戦

ボランチが契機に

 サッカー元日本代表主将で、ドイツ1部リーグ、フランクフルトに所属する長谷部誠が、キャリアの終盤になって再び輝きだした。挑戦を続ける37歳を追った。(ドイツ・ケルン在住スポーツライター、吉泉愛)

◇ ◇ ◇

 3月10日。ドイツのフランクフルトで契約延長会見に臨んだ長谷部は目を輝かせて口にした。「来年は38歳。この年齢でブンデスリーガ(ドイツリーグ)でプレーできることを誇りに思う」。真っすぐなチャレンジ精神が、オンライン会見の画面からでも伝わってきた。

 「去年は99.9%この夏に引退するつもりだった」と言う。特に昨年11月から12月にかけて4試合をベンチから見つめていた頃は、周りから見ていても契約延長を想像するのは難しかった。ヒュッター監督も会見の場で「誠は夏で引退する。彼なしでも戦えるようにならなくては」とチームの世代交代を覚悟していた。

 契機は年明けの初戦、1月2日のレーバークーゼン戦だった。ボランチのローデが累積警告で出場できず、ヒュッター監督はいくつかあった選択肢の中から長谷部に代役を託した。近年はリベロに落ち着いていた当人は「中盤でプレーするのはインテンシティー(プレーの強度)も高いし、もうきついだろうなと思っていた」。ところが90分間、完璧なプレーを見せ、その後もボランチとして起用され続けることになった。

 指揮官は後にこう振り返った。「誠の頭にはレーダーがついている。的確なポジショニングで、われわれの戦術を完全なものにしてくれる」

ファンの前で

 「また中盤で存在感を出せるようになるとは思っていなかった。リベロをやるなど、いろいろな経験が自分の今の状態に通じている」と長谷部は自己分析する。

 手応えを深めていく中、さらなるモチベーションもベテランの背中を押した。ドイツでは約1年、新型コロナウイルスの影響で無観客試合が続く。リーグでも指折りの音量を誇るフランクフルトのスタジアムでも、選手とスタッフの声だけが寂しげに響いていた。

 「やっぱりファンあってのサッカーだと日々感じている。できればサポーターがスタジアムにいる、その前でスパイクを脱ぎたい」。そのためにはまだやれることを示し、契約延長を勝ち取る必要があった。一つ一つに気合のこもったプレーを見ていると、結果を出してこそ生き残るというプロサッカー選手のあるべき姿に改めて気付かされた。

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