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「彗星ジャパン」が東京五輪の手応えつかんだハンドボール男子世界選手権、コロナ感染対策で異例の大会に

感染予防の意識に格差

 ただし、全てがうまくいったわけでもない。出発前の検査で陽性者が出たチェコと米国は代わりのチームに変更。デンマークやスウェーデンは大会中に選手、スタッフから感染者が出たが、迅速な隔離と再検査での陰性証明などでチームへの大きな痛手は回避した。一方、西アフリカ沖の島国カボベルデは人数が少ない上に2選手が陽性となって規定のベンチ入りメンバー数を確保できなくなり、大会序盤で棄権という結果になった。

 頻繁な検査や厳格な措置は、大会を成立させるための手段として効果的だったが、チームによって感染予防への意識の高さに差があったのも事実。大会中に感染が発覚して隔離されたはずの選手がホテル内を歩いているとのうわさも出たといい、選手らは不安を感じながらの生活になった。日本のシグルドソン監督は大会中、「エジプトへ来て誰もが少なからず恐怖を感じている。自分にとっても選手たちにとっても試練だ」と指摘していた。

東京五輪への教訓も

 日本は1月下旬に帰国し、14日間の自主隔離期間までを含めて感染者を出さなかった。チームリーダーとして参加した田口強化本部長は「成績と同時に、安全確保も一番の関心事だった。隔離期間を無事に終えてようやく乗り切ったと言える」と胸をなで下ろした。

 国際オリンピック委員会(IOC)のバッハ会長は、この世界選手権を「困難な時でもスポーツの大会を安全に開催できるという自信になった。今大会の経験から得られるものがある」と称賛。ただ、東京五輪へ向けて楽観視はできず、教訓も生じた。日本チームは開幕10日前にエジプトに入ったが、直前に現地入りしたチームもいくつもあった。ウイルスの潜伏期間と100%ではない検査の精度を考えれば、開幕後の感染発覚があったのも驚くようなことではない。田口強化本部長は五輪を見据え、「経過観察の隔離期間がないと、(他のチームは)精神的に落ち着かない状況になるかなというのは心配するところ」と話す。不安がある中、ホテルのレストランは2チームが同じ場所を使うように指定されたため、同じ場所を割り当てられたチームと話し合って時間を分けることでリスクを軽減したそうだ。

 五輪は33競技が行われ、選手だけでも1万人以上。会場や宿泊先の数も、単一競技の世界選手権とは比べものにならず、「バブル構築」は困難になる。行動制限の徹底も容易ではないだろう。ワクチン接種がどれほど進むか、強制ではないためワクチンを接種しない選手もいるかもしれないが、その中で選手は安心して過ごせるか。難問は山積している。

安心、安全の五輪を信じて

 土井は「有観客であれば、試合の流れもつかみやすい。サポーターの後押しはチームの力になり、間違いなくいい試合ができる。この先、世界の状況が良いように変わってほしい」と願う。日本代表は安全、安心が担保された東京五輪が開催されると信じて、強化に励んでいる。

 東京五輪には12チームが出場。1次リーグB組で日本はデンマークの他、スウェーデン、ポルトガル、バーレーン、エジプトと戦い、上位4チームが進む準々決勝を目指す。シグルドソン監督は「日本のファンに魅力のある試合が届けられることを楽しみにしている」とのコメントを出し、自信をのぞかせている。(2021年4月6日掲載)

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