ハンドボール男子の日本代表チーム「彗星(すいせい)ジャパン」が、今夏に延期となった東京五輪に向けて確かな手応えをつかんでいる。開催国枠とはいえ、五輪出場は1988年ソウル大会以来。その大舞台で世界の強豪国と対峙(たいじ)するための地力を着実に備えつつある。
一端を示したのが、1月にエジプトで行われた世界選手権。日本は97年大会以来の1次リーグ突破を果たした。2次リーグまで通算2勝1分け3敗。最終結果は19位だが、得たものは大きかった。新型コロナウイルスの影響下、感染対策を徹底させた異例の世界大会でもあった。
4月1日には東京五輪1次リーグの組み合わせが決定。日本はB組に入り、前回リオデジャネイロ五輪金メダルのデンマークなどに挑戦する。(時事通信運動部 浦俊介)
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世界選手権の1次リーグ初戦は、強敵クロアチアを相手に29―29。「あそこで決めていれば」「最後の7メートルスローを止めていれば」。勝利と紙一重の引き分けだった。一方で、アンゴラや2次リーグで当たったバーレーンといった日本と実力が近い相手には快勝。王者デンマークにも試合終盤まで食い下がるなど、従来なら点差を広げられていたような場面での粘り強い戦いぶりが目立った。精神面の成長と選手層が厚くなってきたことの証だろう。主将の土井杏利(大崎電気)は「さらなるチームの進化につながる大会だった」と振り返った。
五輪8強に近づく内容
世界選手権には32チームが参加した。これに対して、五輪の出場は12チーム。日本ハンドボール協会の田口隆強化本部長は、今回の戦いぶりから「世界選手権の方が強豪国が多い分、難しい。多少なりとも五輪のベスト8に手がかかったと評価したい」と語った。勝つチャンスがあったクロアチア戦、やや集中力を欠いたアルゼンチン戦は、勝ち点を上積みできたとの見方だ。五輪での8強入りを狙えるレベルに近づいてきたと捉えている。
この大会、主催者はコロナ下でも観客を入れての開催を目指したものの、直前で断念。ただ、日本などではユーチューブで試合が生配信され、多くのハンドボールファンを喜ばせた。時差の関係で日本では深夜~未明に及んだにもかかわらず。その反響は選手にも届いていた。SNSを積極的に利用し、動画アプリ「TikTok」でフォロワーが200万人を超える土井は、「連日夜遅くまで応援してくれた皆さんのおかげでここまで来られたと言っても過言ではない」と感謝した。
「バブル構築」で外部接触を断つ
試合そのものだけでなく、運営面でのコロナ対策も注目を集めた。4カ所の会場、ホテルとそれぞれをつなぐシャトルバスを、外部との接触を断つ「バブル」として構築。各チームや国際ハンドボール連盟関係者、現地スタッフら約3000人がバブル内で過ごした。
当初は3日に1度だったPCR検査が毎日の実施に変更され、日本の場合は1人計18回の検査を受けたそうだ。土井は「ただでさえ重圧を抱えた中で試合をしないといけない中、外的なストレスが多いのは精神的負担になる。経験しなくて済むならしたくない」と率直に感想を話した。
厳しい環境で心身の疲労が蓄積。それでもオフの日には、ピラミッドや地中海を見に行くことはができたという。バスから数人ずつが降り、一人につき数分と制限されながらも息抜きにはなった。
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