米大リーグ、エンゼルスの大谷翔平選手(26)が代名詞とも言える投打の「二刀流」を復活させて、メジャー4年目のシーズンを上々の形で滑り出した。4月4日に「2番投手」で、大リーグ移籍後初めての投打同時出場。立ちがりから100マイル(約161キロ)を超える自慢の快速球を投げ、打撃では一回、特大の先制本塁打を放った。この試合では勝ち星を逃したが、再び「2番投手」で出場した4月26日のレンジャーズ戦で投手として3シーズンぶりの勝利を挙げた。
二刀流こそが「自分を一番生かせる」と信じている。2018年10月に受けた右肘の内側側副靱帯(じんたい)再建手術(通称トミー・ジョン手術)を乗り越え、投打同時出場という究極の形で自身の言葉を証明するようなプレーを見せた。
2度目の登板(26日)は「歴史的」でもあった。大谷はそれまでに両リーグトップに並ぶ7本塁打。エンゼルスによると、本塁打争いで先頭に立つ選手の先発登板は1921年6月13日のベーブ・ルース(ヤンキース)以来、実に100年ぶり。メジャーの伝説的名選手を思い起こさせるほど、躍動している。(時事通信ロサンゼルス特派員 安岡朋彦)
◇ ◇ ◇
2018年に手術を受けた大谷は、19年は打者に専念。20年に投手として復帰したものの、右前腕を痛めたため登板は2試合にとどまり、勝ち星はなし。結局この年も、打者としてのプレーが中心だった。
「この2、3年はけがもあって、あまり活躍できなかったので、悔しさの方が強い。1年目も新人王は取らせてもらったが、後半は投げてない。『悔しいな』っていう思いが、今年のモチベーション」
21年。二刀流の本格的な復活を目指すシーズンに向け、キャンプから投打でスムーズに調整を重ねて開幕を迎えた。「やっていて、楽しいなと思う。どちらかをやっていない時は『欠けてるな』っていう感じがする。ここ2、3年はそういう感じだった。1シーズン通してできるように頑張りたい」。オンラインの記者会見で見せた生き生きとした表情からは、心身の充実ぶりが伝わってきた。
カギを握る「投手大谷」
打者での実績はあるだけに、二刀流復活のカギとなるのは「投手」でどれだけ結果を残せるか。今季初登板(4月4日)となった本拠地エンゼルスタジアムでのホワイトソックス戦で、ジョー・マドン監督は大谷を「2番投手」で起用した。日本ハム時代に経験したが、メジャーではなかった投打同時出場、いわゆる「リアル二刀流」だ。これは大谷自身の希望でもあった。
「自分で打った方が、得点が入った時に、もっとアグレッシブにマウンドでも攻めていける。守りに入ることなく、常に攻める気持ちでマウンドにも行けると思っている」
ただ、先発投手が打順に入れば指名打者制(DH)を使えないため、大谷が短いイニングで降板した場合は救援投手が打席に入ることを余儀なくされる。エンゼルスにとってはリスクを伴う作戦だろう。それでもマドン監督は全米に中継される日曜夜の試合で、この奇策とも言える手を打った。投手が「2番打者」で出場するのは108年ぶりのことだったという。
100マイルと先制アーチ
最初の1イニングで、大谷は投打の非凡な能力を球場やテレビの前のファンに示した。まずはマウンド。1番ティム・アンダーソンを二ゴロに打ち取り、2番アダム・イートンに対しては2ボール2ストライクからの5球目に100.6マイル(約162キロ)をマーク。この球はファウルにされたものの、スプリットで今季最初の三振を奪った。
昨季ア・リーグ最優秀選手の3番ホセ・アブレウは四球で歩かせたものの、初球は100.1マイル(約161キロ)。変化球で2ストライクと追い込んでから、「おりゃー」と声を上げた1球は外角高めに外れたが、三たび大台を超える100.5マイル(約162キロ)を計測した。100マイル超を連発して無失点。相手を圧倒するような立ち上がりを見せ、直後の打撃では一振りでファンを驚かせた。
初球。高めの97マイル(約156キロ)を力負けしないで打ち返すと、高く大きな打球音を残して、右中間スタンドへとアーチがかかった。推定飛距離は、メジャー移籍後最長の451フィート(約137.5メートル)。目覚ましい活躍に圧倒されたようなファンのどよめきが球場を包む中、大谷はダイヤモンドを一周した。
トラウト「まるでリトルリーグ」
チームは四回までに3―0とリードを広げたが、大谷は勝利投手の権利が懸かった五回に突如制球を乱し、4回3分の2を投げて3失点で降板。勝利投手にはなれなかったが、十分なインパクトを与えた。投打にわたる活躍に対し、現役最高の野球選手とも評されるチームメートのマイク・トラウト外野手は、翌日のオンライン会見で「まるでリトルリーグみたいだったな」と驚きを交えて語った。
野球少年の中には、投打で輝きを放つ選手がいるもの。大谷もその一人だったのだろう。花巻東高(岩手)で、投げては160キロ、打っても通算56本塁打。おそらく少年時代からモチベーションにしてきた「投げて打つ」を今、野球選手にとって最高峰の舞台に立っても実践している。そのはつらつとした姿に、トラウトは感心したのではないか。
新着
会員限定