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豊洲の魚、あの手この手で消費喚起(上) 意外な料理で話題に

高級クロマグロをかつサンドに

 新型コロナウイルスの感染に収束の兆しが見えず、飲食店の時短営業が続いていることで、東京・豊洲市場(江東区)は薄商いを余儀なくされている。国内外の数百種という水産物を扱い、日本最大の魚の集散地として機能を維持しているものの、高級魚を中心に荷動きは鈍化。旧築地市場時代から次第に取引量が減少し活気が失われつつあると指摘されていたところに、「コロナショック」が追い打ちをかけた。こうした中、何とか活路を見いだそうという水産関係業者の取り組みが、少しずつ注目されるようになってきた。豊洲市場で競り落とされる高級魚介類を、これまでとは違った料理で提供する飲食店が出現。苦境にあえぐ店が集客の一環として商品化したもので、水産関係者の間でも話題となっている。(水産部長・川本大吾、2回連載)

 豊洲のマグロ専門仲卸「鈴富」の鈴木勉社長は、コロナ禍でマグロの売れ行きが芳しくない状況が続いていることから、苦肉の策として今年2月中旬、高級クロマグロを使った「かつサンド」の製造・販売を開始した。

 かつサンドといえば、豚肉や鶏肉を揚げてパンに挟むのが定番。魚ではタルタルソースを付けた白身魚のフライをパンに合わせるのはポピュラーだが、マグロの「かつ」はメジャーではなく、特にクロマグロなら余計に珍しい。

 魚のまち「築地場外市場」(中央区)でも、「マグロかつ」といえばメバチマグロかキハダマグロのフライくらい。場外で魚などの揚げ物を扱う店によると、「マグロでも筋の部分などは揚げると気にならなくなり、ヘルシー感もあっておいしく食べられる」というが、材料にクロマグロを使うことはないという。

 理由はもちろん、「部位にもよるが、刺し身で提供しないともったいないから」(場外市場の揚げ物店)。それもそのはず、特に豊洲で取引されるクロマグロは、他のメバチマグロやキハダマグロ、ビンナガマグロと比較してもずいぶん値が張るため、すしネタなどで生のまま客に振る舞われることが多い。

大間のマグロに次ぐ「上もの」

 そうした中、鈴富の鈴木社長が販売を開始したかつサンドは、アイルランド沖で日本漁船が漁獲した天然のクロマグロを原料にしている。冷凍ものだが、高級マグロとして定評がある「上もの」だ。

 高級クロマグロといえば、生で出荷される青森県大間産が有名だが、出回るのは晩秋からせいぜい1月まで。安定的に原料を確保でき、かつ上質なことから、鈴木社長は生ではなく冷凍ものの「上マグロ」を材料に選んだ。

 アイルランド漁場のマグロを、豊洲では「アイルのマグロ」と呼び、築地時代から一定の評価を得ている。200キロ以上の超大型も珍しくなく、市場では1キロ当たり5000円以上という生の上ものに引けを取らない競り値が付く。中央区の築地や銀座の高級すし店なら「トロ1個2000円の値が付く」(豊洲仲卸)ほど、折り紙付きの極上ネタとなっている。

 その要因は漁場にあると指摘する声が、市場関係者の間で多く聞かれる。アイルランド沖は、青森県大間産の漁場、つまり津軽海峡よりも高緯度で、世界のマグロ漁場の中で最北に位置している。ある仲卸はアイルのマグロについて、「漁場は、資源管理が厳しいこともあるが、マグロの餌が豊富で数百キロの大型魚に成長する。しかも高緯度の漁場で水温が低く、身が締まって上質なマグロに育つ。日本の漁師は漁獲後、直ちにマイナス60度の超低温冷凍庫を備えた漁船で、マグロの鮮度を維持しながら帰港するため、いつでも良質なマグロを市場に供給できる」と話す。

強いこだわりで商品化

 こうした評価が浸透し、築地―豊洲で大間のマグロに引けを取らない高級マグロの地位を築いてきたのがアイルのマグロだ。鈴木社長はこのマグロを、すしネタだけでなくかつサンドとして、自身が経営する世田谷区の二子玉川駅からすぐ近くにあるすし店「鈴富」の店頭に登場させた。

 トロと赤身の2種類あり、それぞれ「旨み自慢のトロかつサンド」「極上赤身のレアかつサンド」と銘打った。両方ともパッケージには「マグロ屋本気の」と大きく書かれ、こだわりを持った商品であることがうかがえる。

 鈴木社長は「マグロに合うようイーストを選び抜き、増粘剤無添加のパンを使用した」と説明。マグロについては「鮮度の良い一級品の天然クロマグロを豊洲から直送して原料にする」という考えから、この時期に安定的に確保できるアイルのマグロを使うことにした。ただ「質が高く原料の安定供給や、かつサンドの素材としてふさわしければ、今後は日本の近海で漁獲されたマグロも使ってみたい」とも話す。

 サンドイッチは赤身、トロとも1箱3個入り。赤身の方は、食欲をそそる色合いを残そうとレアな火通しで、黒こしょうと、しょうゆベースの特製だれを合わせている。原料の質の良さに加え、鮮やかな赤色を出すため、トロよりも随分と手間がかかることから、値段は2200円(税込み)と、かつサンドとは思えないレベル。

 脂が乗ったトロの方は、マグロの「スジトロ」という部位が使われている。「スジ」とはいっても天然クロマグロだけに、すし店などで「スキミ」などとして貴重な1品になる食材。フライにして、マスタードとウスターソースがベースとなったたれが付けられており、1箱800円(同)。

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