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【地球コラム】ロシア軍演習で一触即発

ホットラインで駆け引き

 一触即発の中、バイデン大統領は4月13日、プーチン大統領に電話をかけた。この中で、対ウクライナ国境付近でのロシア軍集結に対する米側の懸念を表明するとともに、緊張緩和を要求した。米ソのキューバ危機を契機に設けられたホットラインが、今も「両首脳間に存在すること」(ロシアの識者)を示した格好だ。バイデン大統領は近く米ロ首脳会談を欧州で実施することも提案し、不測の事態は避けられる可能性が出てきた。

 バイデン政権発足後、米ロ間では、新戦略兵器削減条約(新START)の5年間延長で合意したものの、中距離核戦力(INF)全廃条約は2019年8月に失効したままで、中国の参加も視野に入れた軍備管理協議が必須だ。安定した核大国同士の関係として、ロシアは首脳会談を定期的に実施したい。ところが、プーチン政権は会談の提案に、即答は避けた。

 ここで絡んでくるのは、米国による対ロシア制裁問題だ。バイデン政権は融和を演出した電話会談直後の4月15日、ロシアによる2020年米大統領選介入やソーラーウインズ社のソフトウエアを悪用した米政府機関へのサイバー攻撃などを理由に、包括的な追加制裁を発表した。3月2日に発表したナワリヌイ氏毒殺未遂事件をめぐる制裁に続くもので、新政権としてロシアに対して発動する初めての大規模な措置となった。

 バイデン大統領は、選挙公約通りロシアに厳しい姿勢を示したと言えるが、予測不可能になるような決定的な関係悪化は望んでいないだろう。一連の流れから常識的に考えるに、2日前の電話会談で「仁義を切っていた」、すなわちプーチン大統領に制裁発動の旨は事前通告していたとみられる。

 一方、これまでバイデン政権がサイバー攻撃などを非難していたことから、ロシアの情報収集能力からして、プーチン政権は制裁が発動されそうな予兆をつかんでいたはずだ。ウクライナ政府軍の動きやNATOの軍事演習に加え、バイデン政権が制裁を辞さない構えであることを念頭に、ウクライナで緊張をあおり、けん制に利用した可能性もある。

 ロシアは国境付近の「軍事演習」で、INF条約への抵触が指摘されたミサイルシステム「イスカンデル」も展開した。かつてバルト海沿岸の飛び地カリーニングラードに配備して欧州を震え上がらせた、いわく付きの兵器だ。バイデン大統領が米国と欧州の同盟の再構築を目指す中、演習がNATOを狙っていたことは明白だろう。(2021年4月20日配信)

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